短篇集
季刊の文芸誌、「モンキー・ビジネス」に掲載された作品を中心に、柴田元幸氏が編んだ短篇集。収録された作品もさることながら、クラフトエヴィング商會の美しい装丁で、所有することがうれしくなる本だった。
収録作品は次のとおり。
・クラフトエヴィング商會 「誰もが何か隠しごとを持っている、私と私の猿以外は」
・戌井昭人 「植木鉢」
・栗田有起 「「ぱこ」」
・石川美南 「物語集」
・Comes in Box 「朝の記憶」
・小池昌代 「箱」
・円城塔 「祖母の記憶」
・柴崎友香 「海沿いの道」
・小川洋子 「『物理の館物語』」
このうち、戌井昭人とComes in Boxの作品以外は、「モンキー・ビジネス」に掲載された作品ということなので、「モンキー・ビジネス」を創刊号以来全て読んでいる私にとっては既読の作品が多かったが、改めて、一冊の短篇集として出来上がった本は、素晴らしい出来だった。
特にお気に入りは、小川洋子の作品。『物理の館物語』という本、読んでみたい。
それにしても、残念なのは、突然の「モンキー・ビジネス」の休刊。たまたま今、その「最終刊」を読んでいるけど、非常に良質な小説を提供してくれていた。いつの日か、復活を願う。
源氏物語九つの変奏 (新潮文庫)
過去の名作を独自にアレンジし、新たな作品として作り直す創作活動は、音楽や絵画の世界ではよく行われている。そうしたカヴァー作品は、オリジナルを踏襲しつつも斬新な改変を試みることによって原作の魅力をより豊かなものにしていく。
その意味では本書は、源氏物語に材をとった当代のカヴァー集といえる内容で、『源氏物語 九つの変奏』というタイトルはぴったりだと思います。
現代の九人の作家たちが、大先輩にあたる紫式部の「源氏物語」の各章を訳していくのですが、原作との「距離感」は作家によってまちまちで、内容を忠実に追った現代語訳もあれば、設定に手を加えた翻案作品もあり、中には、金原ひとみさんの「葵」のように、登場人物のほかは大胆に改作したものもある。アプローチの仕方は違えど、作家たちはおのおののスタイルを打ち出しながら、人物たちの心の機微を描き出していく。
いずれの作品にも原作への敬意が感じられるし、それぞれちがった趣が楽しめ、アンソロジーならではの読みごたえがあります。また、各作品の冒頭に〈原典のあらすじ〉が短く載っているので、「源氏物語」を読んだことがない人(私もその一人)も、作品の中に入っていきやすくなっています。
オビには〈人気作家九人が織り成すまったく新しい「源氏物語」〉とありましたが、本書をきっかけに原作へいざなわれていく人もいるでしょうし、原作を知ったうえで本書を読む楽しさもあると思います
「帚木」松浦理英子/「夕顔」江國香織/「若紫」角田光代/「末摘花」町田康/「葵」金原ひとみ/「須磨」島田雅彦/「蛍」日和聡子/「柏木」桐野夏生/「浮舟」小池昌代
通勤電車でよむ詩集 (生活人新書)
小池昌代の「通勤電車で読む詩集」を読む。詩を読む機会はそうありません。でも本書はそんな機会のない人のために書かれています。3つのグループに分かれて詩が収録されています。私の通勤電車(地下鉄)では片道1つのグループを読み終わり、少しの余韻が味わえます。
一回読んで終わる書ではありません。繰り返し読むことで、言葉の持つ本当の「重み」を感じたいものです。それを感じることが出来れば、時として難解な詩人の世界を垣間見れることができるでしょう。その世界はどんな世界か、自分で感じてみたいですね。