再生巨流 (新潮文庫)
『フェイク』がなかなかの微妙作だったので、不安になりつつ期待しつつ、発売直後に買いました。
今回の舞台はビジネス、それも運輸業界。
アクション中心だった楡さんにしては珍しいチョイスだなぁ・・・ひょっとしてこれもダメ作かぁ・・・?と思いましたが、大違い!手に汗かきながら一気に読了しました。後味も最高に爽やかで、しばらくは興奮してニヤリ笑いが止まりませんでした。
楡さん独特のスピード感と迫力はそのままです。いかついオッサン(主人公)に好感を持たせ、血を流すことなく銃撃戦のような緊張感を生み出す楡さんの文章力にはホレボレさせられます。ビジネス小説なんか見たこともなかった私をもグッと惹きつけるその展開にシビれました。
ついつい誉めすぎましたが、稀に見る良著です。
ここ数年引き気味でしたが、また楡熱が上がりそうです。
宿命 1969-2010 -ワンス・アポン・ア・タイム・イン・東京- [DVD]
放映が始まってしばらくは、ああまたテレ朝臭ぷんぷんのベタな展開・説明的演出で、
しかもかなり昼メロチックな古典ドラマだなあ・・なんて少々馬鹿にしながら
見ていたのですが、回を重ねるごとにだんだんと引き付けられ、気づけば最終回まで欠かさず
見ていました。政略結婚とか忌まわしい血縁とか、はたまた昭和の学生運動とか、
およそトレンディでない、アナクロともいえる題材、脚本なのに倦むことなく楽しめました。
”けれんと虚構の香りぷんぷんの演劇チックなある種重苦しくうざったいノリも開き直って徹底すると、
昨今もてはやされる”軽妙なリアリティ”にもじゅうぶん対抗できるのだということを強く感じた怪作でした。
トーク番組で「役になりきるためには平気で歯だって抜いちゃう」とも語っていた、主演の北村一輝は、
狂気を湛えた表情で実にいい演技してました!
虚空の冠〈上〉
電子書籍の覇権争いがテーマというので、多少の胡散臭さを感じながらも読み始めた。これが抜群に面白い。終戦直後から始まるメディアの攻防のなかで生きる人々の権力をめぐる物語である。モデルは朝日新聞と誰もがわかる新聞社の凋落していく様、まったく!とうなずいた。伏線の張り方、「鳩」の使い方、無駄のない物語の展開がすばらしく、2冊あっという間に読み終えた。最後には、余韻を残した大どんでんがえし。これぞ小説の醍醐味、すばらしいとしかいいようのない仕事だ。しかし、帯のキャッチ「譲り渡した『正義』の代償に、王の階段を上り始める。」は、「『正義』を代償に」でしょう(笑)。