デッドリー・フライト96―LA空港奪回作戦 (ワニ・ノベルス)
南米コロンビア共和国エルドラド空港からアメリカのロスアンゼルスへ向かってボーイング旅客機が離陸した。乗客の中にはコロンビア大使と彼のボディガードである与那城がいた。旅客機がロスアンゼルス空港へ到着した瞬間、乗客の中からテロリストが武器を手に突如ハイジャックを起こした。数名のテロリスト犯は全員日本人。コロンビアの麻薬カルテルから雇われた日本赤軍であった。彼らは重火器を機内へ隠匿させていることに成功しており、携帯用ロケット・ランチャーをも持っている。テロ行為に対しては一歩も譲歩せず強行姿勢を貫き通す米国政府。出動したSWAT隊とFBIは人質の乗員乗客を救出する為に突入作戦を決行しようとするが。
フランス外人部隊、傭兵などの経歴を持ち、傭兵マニュアル、護身術などの数々の著作を持つ著者が初めて書いたフィクション小説。その豊富なミリタリー知識により、作中に登場する武器の説明・描写などが迫真的だ。旅客機ハイジャックというエンターティメント物では何の目新しさも無い題材で、それを全くの正攻法のストーリー展開で書いており、著者の経験知識を生かす為に突入部隊側の描写が中心となっている。(綿密なブリーフィング) テロリストに拉致された乗客側の描写は一切無く、じりじりしたパニック状態的な緊迫感は出てこない。しかし、救出チームの突入作戦決行までのスリル感は最後まで持続している。
東京空港殺人事件 新装版 (光文社文庫)
森村誠一氏の作品としては初期の頃でありますが、当時から念入りで緻密な作品構成に驚かされます。大作だと思います。
思い切って航空機事故を題材にしておりますが、専門外にもかかわらずその原因の諸説や登場人物の背景等の描写が素晴らしく、社会派ミステリーとして本格さを感じます。
但し、事故原因の調査に於いては内部的な追求に留まっており、外部からの情報等がなかったのか不思議に思わされます。
また、原因究明に繋がるブラックボックスは積載されていなかったのかも謎です。(小説が書かれた時期は航空機事故が絶えなかった筈。それによってパイロット・ミス説かどうかが分かる)
ミステリー小説にありがちな密室殺人の件について、殺害された状況は事細かに描かれていますが、最後に暴かれる殺害状況についての描写が淡泊すぎますね。
ただ隙をみて殺害に及んだだけになっており、実際は殺害するにあたり心の動揺等お互いの心理描写がないのが残念です。
この点は殆どの推理作家にも言えることで、それまでの作品の重みを感じさせなくなる欠点です。
登場人物の人間性を深く描いているのは、やはり最近に書かれた作品の方が強く感じますが、当時からもその描写に関して優れた才能があったのだなと感じました。