THIS IS ENGLAND [DVD]
骨太な素晴らしい作品である。
極右として移民に対し暴力と憎しみをぶつける青年グループは、一面では完全なる加害者である。
しかし、極右グループのリーダーであるコンボは貧しく愛の欠落した家庭に育ったことが、ジャマイカ系のミルキーに対する暴力の中で示唆される。またコンボの惨めな失恋にも象徴されるように、彼らはイギリス社会において典型的な「負け組」なのである。
主人公のショーン自身、「貧困は消滅した」と謳った自由主義者サッチャー時代において、父親をフォークランド紛争で失う。ショーンの本質は労働者階級の母子家庭に育った、斜視のいじめられっ子なのだ。学校ではイギリス社会におけるマイノリティーであるユダヤ人生徒(黒いハット帽の青年)にさえも馬鹿にされるのである。
しかし、そうした心に傷を負った少年たちにプライドを与え、信頼できる仲間や偽の「マジョリティー」性を信じさせたのが、移民排斥という暴力を肯定する極右の思想だったのだ。
コンボやショーンらの「負け組」さ加減は、「移民」という不愉快でありながら、自らのアイデンティティを肯定するために必要な片割れを、罵り、おどし、傷つける中で回復されるのである。ショーンはそれまで自分を邪険に扱ったパキスタン系の商店主を罵倒した時ほど、自分の存在が力に満ちていると感じた時はなかっただろう。
そしてこのプロットにおいて、この映画を海の向こうのオシャレな洋画としてではなく、現代日本の若年層右翼の台頭と地続きのものをみなくてはならない理由がある。今の日本は構造的に「負け組」を大量生産する時代である。サッチャーのイギリスと小泉の日本なのである。
しかしこの映画が、ある意味教条的ではあるが、コンボに対するショーンの失望によってエンディングを迎えるのと同じく、極右は最後は自らが信奉するものに裏切られざるを得ない。国家とは究極的にはマジョリティーのものだからである。最後の最後には、「負け組」に国家は報いない。大東亜戦争の熱狂も、結局は前線に送られた大量の貧しい兵士の屍骸に成り果てたのである。
ジャッカルの日 【ベスト・ライブラリー 1500円:アクション映画特集】 [DVD]
ナントカ賞などという華々しい勲章とは無縁でも、見た人の胸にいつまでも残る、隠れた傑作ってありますよね。
この「ジャッカルの日」など、その代表作と言えるのではないでしょうか。
私の場合、初めて見たのはTVでしたが、最初の一撃で完膚なきまでに打ちのめされました。
舞台は1960年代初頭のフランス。
アルジェリア問題をめぐって本国政府と対立する武装組織が、時の大統領ドゴール暗殺を計画。
その実行犯として白羽の矢がたったのが、コードネーム「ジャッカル」という、イギリス人スナイパーでした。
「ジャッカル」は厳重な包囲網を突破してフランスに侵入。
彼を血眼で追う警察の捜査をかいくぐりながら、刻一刻とパリに、ドゴールに迫ります。
果たして暗殺は成功するのか。それとも……。
まるでドキュメンタリーを見ているようなリアリティたっぷりの映像は、
この映画で描かれているできごとが、フィクションではなく、本当に起こった事件であるかのような錯覚を起こさせます。
中でも、デヴィッド・ボウイ風の細身の優男、殺し屋「ジャッカル」の存在感とカッコ良さときたら、これはもうただごとではなく、
プロのスナイパーというのはまさにこのようなものであろうという強烈なイメージを、見る者の胸に植えつけていきます。
後年、青池保子氏の漫画「魔弾の射手」を読んだ時、エーベルバッハ少佐を暗殺しようとするロシア人の殺し屋が、
風貌と言い、愛用の狙撃銃と言い、「ジャッカル」の面影を、そこはかとなく漂わせていて、
「あなたも『ジャッカル』好きですね、青池さん」と、なんだか嬉しくなったことがありました。
想像以上に多くの人に影響を与え、愛されて続けている作品なのだと思います。
映画を見て虜になられたら、原作小説も是非手に取ってみてください。
稀代の才人、フレデリック・フォーサイスの筆による原作の魅力が、この映画でいかに見事に再現されているかが、
感嘆のため息とともに実感できるはずです。
ムーンレイカー [Blu-ray]
舞台が荒唐無稽すぎると批判されがちな本作ですが、私はお気に入りの一作です。
アクションも特撮も両方思い切り楽しめますし、舞台の転換がドラマチックで絵的にも美しい。
そして、舞台がどこであろうと007(ロジャー・ムーア版)のキャラクター性は失われず、却って個性を感じます。
円熟し、安定したキャラクターとなった時期ゆえかもしれませんが。
音楽も主題歌含め、印象に残っており、エンターテイメントとしてスカッと観られる良作と思います。