名歌で読む日本の歴史 (文春新書)
政治学者にして政治家である著者が、該博な歴史認識と透徹した人間観察に裏打ちされた独自の詩歌鑑賞を展開している。従来の詩歌鑑賞は歌人文人により独占されてきていたが、本書により初めてその殻が破られ現代に生きる人間の政治的あるいは人生論的な多角的な視点から和歌を鑑賞する醍醐味が示されたと言えよう。
スサノオから会津戦争の西郷頼母夫人まで100人の和歌を時代順に並べた、いわば松崎版本朝百人一首であるが、たとえば坂本竜馬のあまり知られていない歌を掘り出して光を当てるなど、著者の豊富な読書量にも感心させられた。
劇団四季と浅利慶太 (文春新書)
本書は、『劇団四季と浅利慶太』という表題の通り、劇団四季の創立者であり、政治力にも長け、経営者としての手腕にも優れ、そして類稀なる演出能力を持っておられる浅利慶太氏の偉業をたたえる本です。
「ロングランかレパートリーか」、「俳優」、「全国展開と劇場」、「経営&四季の会」、「上演作品」、「半世紀の略史」、「劇団四季の未来」という章立ての通り、現在の四季の絶大な人気を確立した劇団の歴史や理念を膨大な資料を駆使して描いておられる労作です。
多分、本書の執筆にあたっては、劇団からのしっかりとしたバックアップがあったことは、その精緻で様々な資料の存在からも見て取れます。
劇団四季の発行の月刊誌「ラ・アルプ」には、四季の舞台で素晴らしい演技と歌声を披露される主役や準主役の方の活躍やエピソードが、毎月紹介されています。つまり劇団四季ファンは、その舞台に立つ俳優の方々の情報を一番知りたいと願っているわけです。
ところが、本書を手に取った方の中で、そういう素晴らしい人気を博している俳優のファンの方にとっては、少し物足りない執筆のように感じると思います。つまり、もう少し、四季の舞台を支えている劇団員にスポットライトを当てた方がより一般ウケするように感じました。
そのあたりが残念でしたが、貴重な書物ですし、労作ですので「四季」ファンにとっては一度手にとって見られてもよいのではと思います。