文藝別冊 ちばてつや 漫画家生活55周年記念号
表紙こそジョーですがジョー本でなく、漫画家ちばてつやそのものをフィーチャーした特別本です。
リテラシーの高い質問者による本人インタビューを始め資料的価値も申し分なく、ちばてつや本としては、これまでにない豪華で充実した内容に仕上がっていると思います。
漫画家諸氏のインタビューやメッセージでは、ちば漫画は手塚漫画と比べて目立った研究がされていなかった様で実はプロこそが深く認めているということがわかります。
大友克洋氏が、ちば漫画の構成力について言及されていますが、ちばさん本人が自分の漫画の構成について細かく話したのは初めてじゃないのかな。とにかく、さいとうたかを氏ももったいないと言っておられますが、ちばさんが新作を描いてないのは文化的損失だと断言出来ます。
個人的には、弟のちばあきおさんについて語られていることに感銘を受けました。
どんなものでも君にかないやしない 岡村靖幸トリビュート
トリビュート盤が原曲と拮抗するぐらい良いということは、まずないし、それが岡村靖幸くらいハードルが高いといかにも期待薄だったりするわけだけど、本作はその既成概念を覆すくらい、かなり良い。どれも岡村靖幸への愛情が伝わるとても良い感じの曲ばかり。間違いなく必聴の一枚。
江口寿史のお蔵出し 夜用スーパー
94年の「お蔵出し」以来たまっていたお蔵入りの小品を「お蔵出し2」としてまとめて出したもの。著者は「ラッキーストライク」と「イレギュラー」はそのまま「お蔵入り」のままにしておきたかったようだが、それは目に触れさせたくなかったという意味ではなく、完成させて一冊の単行本にしたかったという意味である。吾妻ひでお「うつうつ日記を読む」では挿入される可愛い女の子の絵のことに触れているが、著者も似たようなことをしているんだがなあ。ただ、吾妻氏の場合は話の筋とは無関係に挿入されるだけの違いだ。
ギャグ漫画は10年経てば書けなくなる。だからギャグ漫画家は10年経てばギャグ漫画を捨てて他の分野の漫画に挑戦して漫画家としての寿命を保とうとする。この本はギャグ漫画を描きたい著者の、その葛藤の跡だといっていい。「イレギュラー」には原作者がついたが、ギャグを捨てきれない著者には5回が限度だった。
老人Z [DVD]
ハリウッドで実写の映画になっても違和感の無い稀に見る日本アニメ・・・といえましょうか。でも江口さんの手になる美少女がこんなに動くアニメであることこそが私にとっては奇跡的であり、この作品を唯一無二な物にしています。まずSFアクションというと未来社会・高層ビル・宇宙などの舞台が浮かびますが、この作品の舞台は四畳半?のアパートだったり街のアーケード商店街。そうした日常の中に第6世代コンピューターが搭載された内実軍事用ロボットが大暴れするプロットの妙にまず喝采してしまいます。心象的に大友さんはここでは「AKIRA」ではなく「童夢」を描きたかったのでしょう。「また仕事熱心な厚生省のおじさん・現代っ子ながら変に擦れてないヒロイン・亡き妻への思慕を持ち続けるおじいちゃん、に対しギチギチの組織人間のお役人・結託するメーカーの技術者の対比の妙にも喝采。事件の発端の病院のパソコンから出る「ハルコさん」を呼ぶシーンから、街で大暴れ、鎌倉に向かって猛進する後半、江ノ島海岸の最後の対決(^^;)まで息をつかせないそれこそ「ジェットコースター・ムービー」。その間には江口流?のギャグもはさみ、ただ緊迫させるだけの演出に終わってません。巷に溢れる「キャラ優先」のアニメ群に言いたい、「面白いとはこうゆうことだ」と。