For Love Or Country: Arturo Sandoval Story [DVD] [Import]
キューバの伝説のトランペット奏者Arturo Sandoval(アルトゥーロ・サンドバル)の“自伝”。
基本的に反革命の映画。 特に80年代以降CUBAを離れていった人々の心境の変化をよく描き出していました。 <アルトゥーロの奥さん・マリア・エレーラ>を通じて我々はその気持ちを汲み取ることができます。「私が外国人を招いたり、主人が好きな音楽を演奏しただけで壊れるような革命ですか? その程度ならやめたら?」というセリフが印象に残ります。
実際のアルトゥーロ・サンドバルはCUBAでカストロ兄弟の次に高級車を乗り回して、豪奢な生活をしていたそうです。 したがって、アンディ・ガルシア演じるところの人物とはかなり違うのだということを実際にアルトゥーロを知る人物から聞きました。 それがトランペット奏者としての彼の価値を貶めるものではありませんが。 どうしても映画には脚色が付き物ですし、ドラマティックにしないと観客を呼べませんからね。 実在の人物と切り離して見なければならないけれども、非常に興味深い作品です。
愛その他の悪霊について [DVD]
静かな映画である。
台詞も最小限に抑えられ、美しい映像と役者の姿を追う事で話が進む。
マルケスの世界を現実として受け入れ、狂気や毒気、マジックレアリスム的要素を引き算し、
押さえた表現と美しい映像で、幻想的な作品に仕上げている。
マルケス原作の映画で少女が主人公の「エレンディラ」(大好きな映画の一つ)があるが、
映画「エレンディラ」が原作の空気をそのまま味わえるのに対し、
この映画は監督のイメージの世界を味わうものとなっている。
監督が一度咀嚼し取り入れた後に、少女の彫像を彫り上げるように作りあげた印象。
マルケスの作品を知る者からすると肩すかしを食らうが、
約一時間半という短い作品ながら彫り上げられた彫像は冷たく美しく、珠玉の作品。
コレラの時代の愛 [DVD]
こ、こんな男があなたの恋人だったらどうする?
「君のために純潔を守り通した」といいながら、
622人の女と「習慣」で寝て日記までつけてるの。
Aちゃんと寝た、Bちゃんと寝たと、律義に記録を
残し、他の女と寝るのは「僕の習慣だから」と・・。
フロレンティーノが、次々に女性と関係を持つので、
彼の考える純潔は「男の詭弁」としか思えなかった。
コレラの時代の純愛というよりストーカーみたいで、
主人公のハビエル・バルデムがちょっとキモかった。
でも、「ママ・グランテの葬儀」の表紙みたいな
色調や鳥の絵が出てくるのはステキと思いました。
私には、良く分からない純愛ものだった・・。
Cien Anos De Soledad / 100 Years of Solitude
南米の架空の町、マコンドの草創、隆盛、衰退そして滅亡するまでの百年を
町を開拓したブエンディア家を中心に描いた傑作。
チョコレートを飲んで空中浮遊する神父、四年以上も降り続く雨、異常に繁殖する家畜など
非現実的なエピソードと超人的な登場人物たちによって綴られる不思議な神話の様な物語に
自然と引き込まれてしまう。
この百年あまりの物語に誰もが圧倒されてしまうのは、
そこに人間の歴史の全てが凝縮されていると感じるからではないだろうか?
私が本書を読みながら気になったのは、「ノストラダムス」という名前が何度か出てくるところ。
そのノストラダムスの秘法を心得たメルキアデスによって羊皮紙に記された
予言通りにマコンドは滅亡へと向かっていく。
我々の現実世界では、世紀末を乗り越えた現在、
ノストラダムスの予言を信じているものはあまりいないと思うが、
本書が書かれた60〜70年代頃は結構真剣に論じられていた事を思い出させてくれる。
もし出版社に良心があるのなら、いい加減本書を文庫化して
この傑作をもっと多くの人が読めるようにしてあげるべきだと思うのだが・・・
族長の秋 ラテンアメリカの文学 (集英社文庫 カ)
カリブ海に面した南米の架空の国の独裁者である"大統領"の見かけ上の栄華と挫折を通して、権力者あるいは一人の人間の孤独を浮き彫りにした作品。実験的とも言える高度な小説手法が駆使されている。
冒頭、死した大統領の邸に踏み込む闘士の視点から描写が始まる。そこから一転、大統領の回想の様な形で過去の様々なエピソードの描写が始まるが、そこでの記述形式は、大統領の一人称、三人称、話題中の人物の一人称等が切れ目なく混在する。小説における記述主体の自在性が追求されている。また、折に触れ冒頭のシーンに戻ったり、トピックスの繋がりも柔軟で、小説における時間軸の自在性も同時に追及されている。
大統領の描き方も、その蛮行や奇癖をあげつらって滑稽味を強調した風刺・寓話的部分、些細な事象を緻密に描いた写実的部分、母との愛情を中心にした人情譚・民話風部分、海辺の(心象)風景や動植物の描写を初めとする幻想譚部分等が、これまた切れ目なく混淆し、読む者を独特の世界に惹き込む。翻訳なので正確には言えないが、行変えを全く行なわない文体、長短の文章の組合わせ等、記述スタイルにも工夫を凝らしているようだ。
奔放に紡がれる言葉の洪水の中で、大統領の悲哀が普遍性とリアリティを持って読む者に迫って来る辺りは作者の卓越した力量だろう。読み応えのある一作だと思う。