サイドカーに犬 [DVD]
監督や竹内さんが似たような趣旨のことを発言していましたが、この映画は全くつかみどころのない映画です。
例えばアクションだとか、恋愛だとか、青春だとかに分類することが非常に難しく感じました。
観終わってすぐの感想は、「なんだか甘酸っぱいなぁ」でした。
作品自体もそうですが、挿入歌のRCサクセションの曲や主題歌のYUIさんの曲がそんな気持ちを増大させました。
これといったテーマがはっきりしないので万人に受け入れられるのは難しいかもしれませんが、個人的には好きな作品です。
特典DISCではメイキング・インタビュー・完成披露試写会・舞台挨拶が観られます。
なかでも舞台挨拶はかなり面白かったのでファンの方には2枚組みをお勧めします。
ぼくは落ち着きがない (光文社文庫)
おもしろすぎる、長嶋有。朝日新聞の夕刊連載がおもしろすぎて(早く単行本になってほしい)、こっちも読みました。おもしろいっ。
カバーが親切(過ぎる?)。主人公・望美のかわいい絵が表紙だし、カバー裏には最終ページの続きまで書かれている(!)。このカバーは見なかったことにして、語り手の感情が極端に抑圧されてちらちらとしか垣間見られない本編だけでも十分楽しいです。
どこの場面を取っても、わくわくするような図書部の日常(っても、大したことは起こらない……って、高校生活ってそういうものだったことに気づかされるわけで)が綴られていて、好きな場面がいっぱい。「嫌だ」を「ヤドゥー」と言うのはもううちの家庭内流行語大賞になってるし。
編集者に「恋愛小説ばっかり依頼されて私、なんだかうんざりなんだ!」と言う金子先生は「最近なんだか編集者って皆、本当に本が好きなのかなあって、疑ってる」と呟く。わかる、それ。編集者だけでなく、読者も、本屋さんもね。こんなに沢山の本が溢れていて、数で言えばいい本もすごく沢山あるんだけど、本屋の中や新聞広告見て感じる言いようのない疎外感(としか言いようがない)……だから、この小説に出てくる本好きな図書部員たちに、ほっとするのかも知れない。で、小説好きのための小説です、これ。恋愛小説書け、とばかり言われて書いたアンチテーゼとも言える?
いや、「あなたくらいの時、恰好いい男の子みると、好きにならなかった。その人になりたいって思った!」という金子先生のせりふ読むと、十分恋愛小説だとも言える。そういうものだった、高校生活って。
猛スピードで母は (文春文庫)
文庫になって早速買いました。すごい。ぐいぐい読めました。
感動させられたりはっとさせられるときって、書き手の読者への裏切りかたがどこか冷たかったり鋭く感じたりするものですが、
これは素直な描写で淡々と書かれているおかげで、おっかなびっくりさせられることなく自然なリズムで読んでいけました。
なのに、泣けてくるのです。その感情は、実際私が今まで感じたことのある気持ち(家族とのいざこざだったり、気持ちのすれ違いだったり。)
にすごく近くて、本当なのです。だから作者は女の人だと思っていたら二度びっくり。なんでこんなに女の人の気持ちが分かるのでしょう。
1970年代前半うまれの読者にはなつかしいいろいろなグッツが出てくるあたりも、リラックスさせる一因かも。
芥川賞を受賞した表題作も良いですが、私は「サイドカーに犬」が好きです。
読み進むのがもったいなくなるくらい、私にとっては面白い本でした。長嶋さんのほかの作品も読もうと思います。
ジャージの二人 [DVD]
独特の雰囲気が面白い作品。浮世ばなれした父親と息子にまつわる物語である。この浮世離れの具合が意地悪く言えばどことなく現実感ぎりぎりを感じさせもする。しかし、彼等二人の生き方が心根にある潔癖さ所以であることに気づけば、物語がまったくの虚構であると突き放してしまえる人は少ないだろう。都会から田舎へ、普通の服装からジャージへ、食事は毎日トマト漬けといった極端な世界に抗うことなく二人が生きる緩いペースが、がむしゃらに走ってきた現代人の心の隙間に沁みる。親子を演じた鮎川誠氏と堺雅人氏がうまくはまっていて、茫洋とした生き様をうかがわせる、会話の「間」もいい。天然という言葉がマイナスのイメージをもって捉えられる現代、あえて人誰しもが持つ天然さ、いわば人としての懐の広さに光をあて、その大切さを静かに訴えかけてくる。もっと言えばその心ばえをして彼等のような時間を自分も生きてみたいと思わせる作品だ。