運命じゃない人 [DVD]
こういう言い方はずるいかもしれないが、“なんともいえず”面白いのである。
時間の軸を行ったり来たり。
推理ドラマの意外な結末への驚きとは違った種類のささやかな発見の連続が
楽しくて仕方がない。
たった一晩の出来事を巧みな脚本で一つの映画に仕立て上げたその力量に大いに舌を巻く。
ここまで周到に練られていると、宮田君にとって彼女は“運命の人”であったようにも
思えるのだが、それは私たちが一歩引いた所からこの物語を眺めているからだろう。
実際当事者の彼にとっては、いつもと何らかわりのない夜にたまたまあった女だった
わけですし。
周囲の人々がみえないところでゴタゴタを起こしているのに、
いたってマイペースな“運命じゃない”二人の姿にくすりとさせられる。
日本映画、まだまだ捨てたモンじゃない!
ノルウェイの森 【コンプリート・エディション3枚組】 [Blu-ray]
松山ケンイチの醸し出す雰囲気が松ケンファンにはたまらない。原作の素朴で優しいワタナベ君のイメージそのままで、自然体なところがすごくステキ。相手役が菊地凛子じゃなければ、、、と何度も思ってしまう。直子のイメージにまったく合っていない。それが本当に残念。監督が日本語を母国語としない人だからその辺の微妙なズレがあるのかなぁ。あと、みんなの台詞がすごく棒読みなのもそのせいだろうか。でも別に悪いわけではなく、逆にそれが原作の淡々とした世界をうまく表現しているのかもしれない。
とはいえ、村上春樹の「ノルウェイの森」を忠実に再現していたかどうかを問う映画ではないと思う。原作を元にしたトラン・アン・ユン監督の「ノルウェイの森」という映画として見ればとても素晴らしい。映像がとにかく美しい。木々の緑と雪の白さが印象的で、そこに効果的に用いられている赤や青のカラフルな色づかいや光の陰陽が何とも言えない。どのシーンを切り取っても素敵なポスターになるような、とても透明感にあふれたカッコイイ映像ばかり。レトロでアジア映画チックな色づかいがオシャレでうっとりと見とれてしまう。こういう映像は大好き。
ノルウェイの森 【スペシャル・エディション2枚組】 [DVD]
まず、直子を演じた菊池凛子ですが、直子役には年をとり過ぎている感じもします。それに、下品とは言わないまでも、上品な感じは出ておらず残念。その意味で、「トニー滝谷」の宮沢りえは素敵だった。あの透明感は、村上春樹作品にピッタリ合っていたし、イッセー尾形の演技・雰囲気も良かったなぁと思ってしまいます。
ミドリ役の水原希子は、モデルで役者は初めてのようですが生命力に溢れたこの役では、棒読み的なセリフまわしがかえって魅力的。頬やうなじから発せられる若さは、それだけで生を表現しているかのよう。
そして、主人公の松山ケンイチ。さすがですね、どんなタイプの役もこなしちゃう。目線や微妙な表情がいい。
衣装、ロケ地、時代考証、トラン・アン・ユン監督のクラシックなテイストともマッチしています。ただ、村上春樹作品にある、いい意味でのスノッブさはないように感じます。
そして、マーク・リーピンビンの美しい映像。登場人物を真ん中に置かないアングルもユニークで、これも監督のテイストに合っています。
上下2巻の話しを133分に凝縮しているので、カットしたエピソードがあるのは仕方ないことですが、直子の自殺の後で二人で『淋しくないお葬式』をあげるエピソードがカットされているので、レイコが、ワタナベ君に横恋慕してて、直子が死んだのをいい事に、ワタナベ君とセックスしたとしか思えない。これはイカンでしょ。
突撃隊の柄本時生、永沢役の玉山鉄二はピッタリでした。ただ、登場場面がもっと多くてもよかった。レイコ役の霧島れいかは、印象は悪くなかったですが、歌がイマイチなのはねぇ。それに、(まぁ、版権の問題があるんでしょうけど)肝心のビートルズの歌を歌わないし。「イエスタディ」「ミシェル」などはともかく、彼らの心象風景を象徴している「ノーホエア・マン」は歌って欲しかった。
何はともあれ、鑑賞後は原作を読んだ時に感じた何ともいえない喪失感を味わいました。この言葉に出来ない感覚が、この物語の核なんですよね。たぶん。それは、ちゃんとこの映画にもあったと思います。
良くも悪くも強い印象を残す映画であり、私は肯定的に評価したいです。