坊っちゃん (SDP Bunko)
夏目漱石さんの有名な小説。
よく痛快だと言われている(ような気がする)。
しかし私には最後まで、いつも、どこか哀しかった。
主人公で、語り手である「坊っちゃん」は、ほとんど一人だ。
はじめから最後まで、味方と呼べる人間はほとんどいない。
家族でさえ否定的で、冷淡で、「親譲りの無鉄砲」とはいうものの、
その裏側に乾いた「諦観」すら感じてしまう。
それでも不思議と深刻さを感じさせないのは、
彼が自分に同情しないからだと思う。そして「清」の存在。
もう「坊っちゃん」ではなくなった語り手が語る、
「坊っちゃん」だった頃のエピソードは、それがまっすぐで
痛快であればあるほど、同じくらいの強さで哀しくなる。
面白いのに哀しい。ぽっかりと哀しいのに、十分すぎるほど面白い。
お見事。
Expressions (初回限定盤)
竹内まりやが、50歳を超えてこれだけ多くのリスナーに支持され、絶大な人気を誇るアーティストとして健在なのは驚くべきことです。
移り変わりの激しいJ-POPの世界にあって、結婚、出産、子育て、そして復帰と辿ってきた彼女の歩みは「人生の扉」の歌詞そのものに表れているでしょう。またそれは素敵な生き方だと皆に評価されているのも人気につながっています。
生きざまもまた彼女の魅力を倍加させているようです。「人生の扉」の歌詞とデニムに身を包んだ彼女のスナップにその歩みの確かさが感じられました。
本企画が、過去のアルバム『IMPRESSIONS』とかなり重複するのは当然で、それはベスト・アルバムの宿命とも言えるでしょう。その間の14年、なお新しい曲を紡いできた彼女の活躍の証しだと評価しています。
これだけの名曲を比較的廉価で提供してくれていることに感謝したいと思います。選曲はベストです。本当はもっといろいろと聴きたいのですが、それなら完全コンプリート盤を待つしかありませんので、遠い将来の夢としましょう。
別冊のリーフレットは豪華でした。彼女の手による全曲の解説はお宝ものですし、彼女の歌作りに対する思いの深さが込められています。ラストの「心からの感謝をこめて」のメッセージは、ファンへの感謝の言葉が詰まっており、嬉しく受け取りました。
達郎のコメント「ポップ・カルチャーの本質は、つまるところ『生きることの肯定』だと思います」は、けだし名言でした。
見開きで写っている満開の桜の前での彼女のステキな横顔を眺めながら、J-POPを牽引してきた竹内まりやの歌声に浸っています。
肩ごしの恋人 [DVD]
キャリアと恋愛を両立させ、気ままな日々を送るチョンワン。
一生楽に過ごせそうな、無難な男を見つけて結婚したヒス。
ふたりは親友だけど、お互いに相手より自分の方がましな暮らしを送っているという自負が見え隠れして、
三十路女のちょっと複雑な心境が伺える。
原作が日本の小説だから、どっぷり韓流の濃い味付けは期待できない。
海外養子のマルコのエピソードだけが韓国らしいかな?
日本人には違和感があるけれど。
やむを得ず、一時宅配企業に就職したヒスのKYぶりがおもしろかった。
総じてヒスを演じたイ・テランさんがよかった。
イ・ミヨンさんはイマイチかな。
肩ごしの恋人 (集英社文庫)
夜10時から放送している連続ドラマのようなストーリーはまさに
女性の女性による女性のための小説だ。
"偶然"の遭遇によって浮気を発見する展開なんかはドラマの王道。
もちろんドラマ的な小説が悪いわけではない。
この本は直木賞という文学的お墨付きを受けており、
文章も読みやすく、個性的な登場人物たちの心理もわかりやすい。
手軽に読める文学作品としては実に申し分のない作品だと思う。
それにしても15才の「崇」は一体どういう経緯で、萌の会社でバイト
するようになったんだ?履歴書を偽造したのだろうか?
あと、それほど広くないであろう社内で、主人公が崇の存在を知らなかったのも
なんか不自然のような気がするし、
新宿二丁目で女がバイトしてるってのもあまりにもナンセンス。
ま、だけどそういう詰めの甘さもドラマ的で微笑ましいといえば微笑ましいですけどね。
肩ごしの恋人
唯川さんのエッセイは共感ができて、着眼点もなるほどとうなずけることが多く、好きな作家の1人です。
今回は小説として初めて読みましたが、主人公の女性2人にはあまり感情移入ができませんでした。
それでもまだ自分の性格とかけ離れているるり子の方が理解できました。
人物設定が単純というか奥深さに欠けているような、そんな印象を受けました。
この小説は恋愛小説というには物足りず、新しい生き方を指南するというのにはちょっと飛びすぎているので、そのあたりを期待しなければ肩のこらない読み物としてちょうどいいです。