季刊 真夜中 No.14 2011 Early Autumn 特集:ノンフィクション
季刊のちょっと洒落た文芸誌。創刊号以来読んでいるけど、毎回趣向をこらした特集が楽しみな雑誌だけど、今回のノンフィクション特集は、今までの中でも、かなり心を打つ内容だった。
特集のタイトルは、「ノンフィクション 生き生きと世界を見る」。
良かったのは、石川直樹氏の「撮影地点:8848m ―エベレスト、真夜中の頂上アタック―」。久々に写真を見て感動してしまった。こんなに美しい写真、めったに見れないなぁ。
そのほか、木村俊介氏の 「“インタビュー”によるノンフィクション名作選 感情の遺跡 ―― 空に放たれた声を集めて」というブックガイドというのもいい。日頃、フィクションを読むことが多い自分だけど、ここに取り上げられているノンフィクションの紹介は見事で、読みたくなってしまう。
前田司郎氏の「小笠原記」も、小笠原でイルカを見に行こうと思っていた自分にピッタリ。世界遺産の話もあってタイムリーだ。
それよりも何よりも、今号のもっともすごかったのは、東北関東大震災の写真を集めたもの。文章は目に入らず、そこに取り上げられていた数々の報道写真に心を奪われてしまった。テレビでは報道されないものが一枚の写真で伝わる衝撃に言葉を失う。
いい特集でした。
ピアノ
郁子ちゃんソロアルバム第一弾。
『たのしそう かなしそう』から始まる癒しの時間。
私はもともと『たのしそう かなしそう』が大好きで、シングルだけでもいいかな〜と思ってたけどアルバムごと買って良かったです。
一曲一曲のピアノに合わせて唄う郁子ちゃんの唄声が堪らなく可愛くて、これぞまさに癒しだな、なんて。
ソロ三部作の二枚目はまだ聴いていませんが、私はこの『ピアノ』がいちばん好きです。
全曲いいです。
ブタとおっちゃん
養豚家のおっちゃんの愛嬌あふれる顔が魅力的で思わず手に取った一冊。おっちゃんと豚達が触れ合う様子は本当に愛らしく微笑ましいが、一方でその豚達が食肉として売られていくという現実、痩せたおっちゃんの老いた身体からは、死生観を問いかけてくるような静かな力がある。
都会に生きていると忘れがちだが、僕らは何かを殺して食べながら日々生きている。生と死は本来別々なものではなく一体となったものだ。養豚家のおっちゃんの人懐っこい佇まいからは、そんな命に関するエトセトラへの答えが穏やかに、そして感動的に伝わってくる。
市役所職員が地元の養豚家を写し続けたこのシリーズは、被写体のおっちゃんが亡くなって養豚場が廃業してしまったためにもう続かない。この作家の作品集が出るのも、もうこれっきりの可能性が高い。でも、この写真集との出会いは僕にとって素敵な一期一会だった。
トリツカレ男 (新潮文庫)
物語の序盤は、なにかに本気でとりつかれちゃう(夢中になってしまう)男、ジュゼッペの突飛な行動を描いていって……ホップ!
そんなある日、トリツカレ男のジュゼッペが、孤独を抱えた少女と出会って……ステップ!
そして……ジャンプ!
とまあ、詳しく語ることは控えますが、一気に読めて、心がほかほかしてくる素敵な物語です。読み始めて最初のうちは、妙な人物が出てくるおかしな話だなあぐらいにしか思わなかったのですが、上記の「そして……」と話がジャンプする辺りから、がしっと話に掴まれて引き込まれていきました。
トリツカレ男の行動を見守っていくうちに、「ジュゼッペーっ、負けるなー。あきらめんなよー」と応援したい気持ちが、ずんずん、ずんずん、湧いてきました。彼のどうしようもない一途なところが、まっすぐに突っ走るところが、とても愛しく思えて、読んでて目頭が熱くなりました。