
影武者徳川家康〈中〉 (新潮文庫)
史実をバックボーンにした物語の中で、この中巻はより創作性が強く
エピソード的な展開が数多く進む感じがする。クライマックスを控えた嵐の前の静けさ、肩の力をちょっと抜いた作者のイマジネーションが現れた作品と思える。

一夢庵風流記 (新潮文庫)
学生時代漫画で読んだが、友人より実在の人物だと聞いて驚いた。驚きのあまり私はそれを否定してしまった。
巻末に「石原裕次郎主演で映画化した際に原作者がシナリオを担当した」と書かれている。時間がなかったため、あまりの出来の悪さにリベンジしたのが本作品だそうだ。
しかし、必死で集めた資料がペラ紙1枚・・・。よくそれだけの資料でこれだけの本が書けるものだと脱帽するばかりである。
その心意気が主人公 前田慶次郎と相通ずるものがある。
隆慶一郎というもののふが前田慶次郎というもののふの話を書く。
その心意気があればペラ紙一枚で十分であったのかもしれない。
最後になったが現在でも歴史小説の基準がこの作品となっている。
この作品を超えるものが果たして出るのであろうか、その日を心待ちにしてはいるものの、その日が来て欲しくないという思いもある。

吉原御免状 (新潮文庫)
作者は脚本家としての経歴があって話を考える、作ることの経験と実績が既にあったとはいえ、初の長編作品でここまで小説として面白く、素晴らしく独創的で、まるで読者を網で一切合財捕らえてしまうような完成度の高いものが出来上がるのかと素直に驚いた。
この作品から、家康とその影武者を描いた『影武者徳川家康』、後水尾帝を描いた『花と火の帝』、柳生を描いた『柳生』の冠の付いた諸作品へと展開していったのかと思うとある種の感慨を読後に覚えた。
もう一言余計なおまけを付けますと、
隆先生は濡れ場の描写が上手いなぁと思います。