ウツボカズラの夢 (双葉文庫)
母が死に、父とその後添え、そして弟から孤立した19歳の主人公は
東京の裕福な親類を頼ってふるさとを捨て上京する。
優しいけれど気まぐれなおばと、団体職員で影の薄いおじ、
大学生で家に帰ってこない息子と、一見平凡な女子中学生にしか見えない娘。
しかし、一緒に暮らし始めて、この家族がお互いにとんでもないウソツキだと
わかってくるヒロイン。奇妙な家族の中で、彼女自身も良心を麻痺させて
自分なりにしたたかになっていく・・・
という、ひとつの家族に放り込まれた異分子のような女の子をヒロインにした
物語は、それぞれの家族の秘密が発覚し、嵐が起こり、と、ハイペースで
畳み掛けるように展開する。テンポ良く一気に読めるのだけれど、
思わせぶりな書き出しの割には大きな事件やどんでん返しはなかったな、と
個人的には肩透かしを食らった感も。
一度に1冊何か丸ごと読んでドキドキハラハラしたいときにお勧めしたい。
凍える牙 (新潮文庫)
ベテラン刑事とコンビを組み、ファミリーレストランで起きた男炎上殺人事件の犯人を追い詰める、元シロバイ(トカゲ)の女刑事。
男社会の中でさまざまな不条理な扱いを受け、家族の問題など、さまざまなストレスを抱えながら、大型犬に咬まれた連続殺人事件を究明していく。その中で彼女は被害者を襲った大型犬ー狼犬ーの自由に街を闊歩する野生のにおいに弾かれていく。
最後の彼女と狼犬の対峙はまるで映像が浮かび上がってくるような描写。ストーリーの運び方とスピード感は最後まで読者をあきさせない。非常に力量のある作家である。
しかし難点といえば、事件の真相。事件の真相はもうちょっとひねりがあってもよかったのか、と思う。犯人の犯行の動機や、追い詰めていく緊張感がなかった。他の作品に期待したい。
犯意 (新潮文庫)
この本の特徴は、まず事件の詳細を聞き、専門家の解説を読むことで、「自分だったら・・・」と考えることでまるで「裁判員」の疑似体験をしているような気分をしてしまうことにある。
だから本書はエンターテイメントの面はもちろんのこと、それ以上に「社会面」が強い作品だったのではないかと思う。
しかし、私はそうした意味と同じか、もしくはそれ以上に大切なことがあるのではないかと思う。
それは、「人のふり見てわがふり直せ」ということ。
読み終わった多くの人は、事件の犯人の行為をみて、「こいつは最悪の奴だ」とか「自分はこんなこと絶対にしない」と思うことだろう。
しかし、絶対にそうといえるのか?、そういう環境を作っていないか?、そうしないためにはどうしたらいいか?、などいろいろなことを自分自身に問いかけてみることが本書を読んだ人には必要なことだと思う。
これまで書いたことを肌で感じるためには、実際に裁判の傍聴をしてみるのが一番だ。
しかし住んでいるところなどの事情から難しいという人もいると思う。
そんな人に本書を勧めたい。