古都 [DVD]
原作にかなり忠実な点、文芸映画として好感を持てる。岩下志麻がみずみずしく若々しい魅力を放っている。千重子役ではお育ちの良いお嬢様風のメイクで眉も都会的に描いており、この映画で成功を収めた後の「女優・岩下志麻」そのもの。苗子役では素顔に近い岩下志麻が見られ、眉のメイクも素朴。京都の街並み、北山杉の里の風景が美しく映されている点も長所だろう。
ただ、武満徹の音楽には違和感を感じる。時折シーンとシーンの間にはさまれる無機質な効果音が、せっかくしっとりと醸し出されていた京情緒をかき消してしまう。祇園祭のお囃子や寺社の鐘を思わせる音を使うのは良いのだが、コンクリートを連想させる非情緒的・無機的な音響は、木と土と紙で作られた古都の街並みには合わない。運命の暗さ、不合理さを表現するにしても、もう少し情緒的な音で可能では?
全体としては今も鑑賞に耐える成功作だと思う。
伊豆の踊子 [DVD]
昭和初期の秋。一高生の水原(石濱朗)は、先輩の小説家を頼って、伊豆の旅
館へやって来る。そこで、水原は、旅芸人一座のあどけなさを残す踊子、薫(美
空ひばり)を見かけ、淡い思いをかき立てられる。翌日、下田へ向けて一座が出
発すると聞き、水原は、彼らと行動を共にする。少しずつ、薫と親しくなって行く
水原だったが…。
川端康成の同名小説の映画化作品。松竹としては、五所平之助監督、田中絹
代主演作に次ぐ、2度目の作品。原作の雰囲気を崩さず、野村監督の端正で抑
制の効いた演出で、美しい小品になっている。薫は、その時代のアイドルの登
竜門的役柄と言っていいが、本作では、当時の人気絶頂だった17歳の美空ひ
ばりが、初々しい魅力で役柄に生命を吹き込んでいる(2曲披露)。松竹の箱入り
スターだった石濱朗も、偶然にも、若き日の川端の相貌に似ているのが嬉しい
ところだ。
より自由な恋愛描写の作品が主流になっていた50年代に、原作の持ち味とは
いえ、キス・シーンはおろか、抱擁シーンさえないプラトニック(ストイックと言って
もいいぐらい)な恋愛を描いた本作は、初恋の淡く微妙な思いと、もどかしい距
離感に満ちた作品だ。石濱と美空に、それぞれ、そっと(隠れるように)視線を交
わさせ、ぎこちない会話をさせる野村監督の演出は、若い二人の清らかで澄明
な、しかし、壊れそうに臆病な心情を美しく巧みに表現している。若い主演の二
人の資質と魅力を十分に引き出した演出だ。加えて、伊豆の風光を生かしたロ
ケーション撮影が素晴らしく(近代化しつつある前の伊豆の姿を捉えたギリギリ
の時期だったろう)、画に日本的な奥ゆかしい情緒を添えている。
本DVDは、16mm原版(と思われる)から、テレシネ、レストアされたマスターを使
用したもの。大きなキズなどもなく、総じてきれいにレストアされているが、ディ
テールに乏しいソフトな画質。音質は、数ヶ所でこもるようなところもあるが、総じ
て明瞭。50年代前半の作品としては、及第点の質だろう。特典映像などの収録
はなし。
四季
2010年春公開予定の川端康成原作による文学映画「掌の小説」の主題歌である「四季」は原点回帰ともいえるKagrra,の和の旋律が楽曲を彩る美しい曲です。イントロの琴とアコギの絡みに優しいメロディーが乗っかるかのような、印象的な和バラードとなっており、名作『燦〜san〜』の頃のような雰囲気をもった温かな仕上がりになっています。
共通c/wの「夢想鏡」は和風メロディアスを軸にハードなギターのリフ、バッキング、ソロとアグレッシブなロックナンバーになっており、どろどろした黒系ではなく、疾走感のある爽やかな曲調がカッコイイです!暴れまわるベースソロの後に繰り出されるメタルっぽいギターの速弾きが心地よいです。
通常盤のみの「戯曲 かごめ謡」は少女の「後ろの正面 だぁれ?」の呟きで始まるミディアムナンバーです。インディーズ初期の彼らの曲のような独特の和の世界観がいかんなく表現されており、懐かしくも深いマニアックな仕上がりとなっています。
余談ですが、「かごめかごめ」とは遊女を連想させた言葉遊びの曲らしいです。
今回のシングルはいつものKagrra,を聴かせてくれた上に3曲とも異なるタイプの曲だったのでバリエーション豊かで楽しみながら聴くことができました!
『雫〜shizuku〜』や『Core』に首を傾げた人もこのシングルは気に入ることができると思います。
Snow Country (Vintage International)
“The train came out of the long tunnel into the snow country.” This opening sentence is perhaps the most famous of all works of Japanese literature. Shimamura, a passenger on the train, revisits the hot spring in the mountains after six months, where Komako, a country geisha, awaits him. She comes to his room at the inn and spends a lot of time there, almost always heavily drunk. Though he is much attracted to Komako, he seems incapable of loving her. When he blurts out, "You’re a good woman,” she realizes that she has been used. Inevitably, the time comes for him to leave her. This is a moving portrayal of a charming hot spring geisha.
なずな
育児をテーマにした小説らしい、というのは読む前から知っていたのだけれど、著者の洗練された文体の印象から、「堀江敏幸」と「育児」が、わたしの頭のなかで、どうしても結びつかなかった。
読みはじめて、納得。
たしかにこれは「イクメン」の物語で、同時に、ファンにはたまらない堀江流スパイスがたっぷりかかった長編小説なのでした。
独身で、育児の経験もない主人公菱山が、ひょんなことから、生まれて間もない姪っ子、なずなを預かることに。
周囲の人を巻き込んで、男手ひとつで菱山の奮闘がつづく――という、あらすじにしてしまえばそれだけのストーリーなのだけれど、見事なのは、なずなを中心に人のつながりが生まれ主人公の周りの景色が変わっていく、そのディテールの描きかた。
「なずなが来てから私の身に起きた大きな変化のひとつは、周りがそれまでとちがった顔を見せるようになったことだ。こんなに狭い範囲でしか動いていないのに、じつにたくさんの、それも知らない人に声をかけられる」
昼夜の別ない授乳とオムツ替えで寝不足になりながら、ベビーカーを押して取材に出かけるうち、菱山は、今まで気づかなかったあたらしい町の表情を発見する。
主人公の脇をかためる魅力的な登場人物たちの存在に、「こんな町で子育てができたらいいなあ」と憧れさえ抱いてしまう。
なずなが初めて涙をこぼす。笑う。寝返りをうつ。喃語が出る。
その生命力に、周りの大人たちはひきつけられ、心を動かし、一喜一憂する。
そして菱山は思うのだ。
「世界の中心は、いま、《美津保》のベビーカーで眠るなずなの中にある」
4百ページを超える長編を最後まで読みきったら、何だか勇気が出て、夏に生まれてくる赤んぼうをむかえるのがすごく楽しみになった。