シリウスの道 [DVD]
原作は、広告業界を舞台にした「企業小説」の色彩が強かった。
もちろん、主人公「辰村」とその幼なじみ(勝哉と明子)が、
それぞれ抱える「影」や、自分を卒業できないでいる辰村など
いかにも! という感じの藤原伊織の世界ではあったが、
広告業界の専門用語も出てきて、戸惑う部分もあった。
それを補っていたのが、辰村の部下・戸塚の成長ストーリーだったと思う。
しかし映画では、あくまで主役は内野聖陽 演じる辰村である。
これが、ピタリ、はまり役!
ストーリーも、途中までは原作に比較的忠実だが、
サブテーマである戸塚がらみのエピソードは割愛され、
その分、辰村、勝哉、明子の「25年前」と「今」がクローズアップされる。
とくにラスト30分は、原作とはかなり異なる展開である。
しかし私にはむしろ、この展開のほうがある意味、藤原伊織的ではないかとも思えた。
やや、クサいラストシーンも、そんなに違和感はない。
内野以外のキャストも、なかなかいい。
☆を1つ減らしたのは、「相棒」で鑑識の米沢を演じている六角精児が、
ちょい役だが「悪人役」で出ていたこと。
あまりにも「米沢さん」の印象が強いせいか、
名演なのだが、やや抵抗はあった。
もっとも、映画の評価を落とすほどのものではないが……。
名残り火―てのひらの闇〈2〉 (文春文庫)
テロリストのパラソル以来の筆者のファンですが、筆者の遺作となった本作品も期待を裏切らないものでした。
やくざの組長の息子にして、頭脳明晰・状況により実力行使もためらわないが、酒を飲むとすぐに記憶を無くすという主人公、大会社の創業社長にして、大型バイクに乗り、とてつもない胆力を持つ人物、才色兼備にして離婚寸前別居中の主人公のもと部下である女性、等々魅力ある登場人物が、主人公の親友の突然の不審死の謎に迫っていきます。
テーマ自体は極めて重いもので、緊張感が持続しているのですが、その中に思わずニヤリとさせられるユーモアが随所にちりばめられ、筆者ならではのハードボイルドの世界観が感じられます。
本当に惜しい作家をなくしたものだとつくづく寂しく思います。
BE×BOY(ビーボーイ)CD COLLECTION ハート・ストリングス
原作未読ですが、亜樹良のりかず先生好きなので、取り敢えず聴いてみました。
購入の決め手は黒田さんが榊の声されてたんで購入に至ったんですが、流石黒田さん!
ヤクザ=黒田さんって位ぴったりで良かったです。相手役の遊佐さんも良い声してるのでホスト役がぴったりでした。なかなか良かったと思います。
意外と流れ的にもスムーズで、さらっと聴けるのではないでしょうか。
欲を云えばフリートークが無いのが残念でした。
シリウスの道〈上〉 (文春文庫)
「ひまわりの祝祭」の絵画、「てのひらの闇」の広告、「蚊トンボ白鬚の冒険」の株取引といった素材を再投入、さらには、酒以外にはホットドッグしか出さないバーを舞台装置として「テロリストのパラソル」の世界観、登場人物に接続する総決算的な作品となっている。「テロリストのパラソル」のアル中バーテンダー島村と著者自身を足して2で割ったような主人公の造形といい、広告業界の内情の踏み込んだ筆致といい、なりふり構わぬ全力投球ぶりは、本書の中の言葉を借りれば“未来永劫”を考えない腹の据わりを感じさせる。退職、癌宣告といった著者の私生活と決して無縁ではないだろう。本著には著者略歴が記載されていないが、本作自体が著者プロファイル、といった趣がある。主人公の38歳という年齢が、藤原伊織本人で言えば「ダックスフントのワープ」でデビューした時期に当たっていることも興味深い。
藤原作品の主人公は、ハードボイルド作品の常としてダンディズムを身につけている。その“美学の中味”には正直辟易する部分もあるのだけれど、“やせがまんの矜持”だけではなく“弱さ”も自覚しているところに共鳴する。主人公は“赤の他人に自分の弱点を無条件に晒すことのできる”人間には結局勝てないと実感している。本書の評価は、弱さを晒さずに現実の虚飾を生きてきた団塊世代(主人公の実年齢と乖離はあるけど)が、「あの時代にもどれるとしたら...」「どんなに貧しくても、あの時代にみんながもどれたらいい」と本音を漏らすことの是非によっても分かれるだろう。
メール、Webといった新しいメディアと電話の使い分け、プレゼン案のディテールのリアリティなどはさすが。吉田修一の「パークライフ」の舞台だった日比谷公園がこの小説でも印象的な場面で使われているが、大手町、銀座からほどない距離のあの場所は、現実から過去への回路なのかもしれない。
テロリストのパラソル (講談社文庫)
ご都合主義という意見には確かに納得です。主人公島村の行動範囲は警察から追われている身ということもあり狭いですし、得られる情報も新聞からやバーテンをしてた時の客やそのつて、そして奇妙なヤクザ浅井や被害者の娘塔子からなどで、近しい存在からがほとんどです(それに浅井や塔子は向こうからやってきますし)。また、学生運動に対するマスターベーション的小説という批判もたしかにできるでしょう。ストーリーや謎解きを重視したミステリー作品という観点からすると、欠点は多々あるかもしれません。でも、この作品をなおも傑作にしているのはここに込められている美学だと思います。どの場面をとっても、登場人物を介した作者の美学が息づいています。人生とは何なのか、どう生きるべきなのか。そしてその美学が端正かつ丁寧な文体によって表現されており、何度読んでも感動がよみがえってきます。この美学を表現するために、ミステリーという形式が必要だったとさえ思えるくらいです。単なるミステリー作品として読まずに、ここに込められた美学に共感した読者には生涯忘れられない作品になるのではないでしょうか。