デンデラ (新潮文庫)
会心の一作だと思う。佐藤友哉(ユヤタン)についてきて良かったと
感じさせられた作品だった。
自分の作品の中で幼い児童や少年・少女たちに襲いかかる世界の悪意、
不条理を書いてきた佐藤友哉だが、『デンデラ』に子供たちは登場しない。
描かれるのは全員、死の淵に片足を突っ込んだような老婆だけである。
そして、彼女たちにふりかかる困難も、物語の導入こそ佐藤友哉の作品に多い
「自分たちを受け入れてくれない社会」から始まっているものの、やがて悪意も
何もない、災害に近い暴力へとその焦点が移っていき、自分たちをさいなむ
現状の責任の所在を他者に求めるような展開に陥るのを、巧みに退けているように思った。
言うなれば、心も肉体も成熟した人間が小さくか弱い子供に自分を投影して
世の中を描こうとする一種のずるさを、そしていま自分が抱えている問題の
原因を自分ではなく自分以外の誰かにそらそうとする欺瞞を、この『デンデラ』で
佐藤友哉は自分にまったく許していないし、読み手にも許可していないのである。
安易にハッピーエンドとは言い切れないし、一見これまでの作品の延長線上にある
報復や反逆を再び描いたような締められ方だが、実際のところそこには、陶酔的な悲観も
大義名分のまがいものもなく、自分の中から自分をごまかすための甘えを一切
そぎ落としていった果てに、ありのままの自分が、そんな素裸の自分を力強く
肯定して突き進んでいく爽快感を感じた。
読み終えて、「よくぞ書いた」という気持ちと「まだこんなもんじゃないだろう」
という気持ちと半々。今後への期待が賞賛に若干勝ったので、星4つにとどめた。
佐藤友哉のキャリアにおいて決定的な意味を持つ作品だと思うので、氏の作品を
未読の方だけでなく、ファンの人にこそ強くすすめたい。
U-cafeオツイチ特集号
本書は書名にもあるとおり、作家である乙一を特集した本である。
内容に関しては『U-cafe』にて詳細が載っているので、興味があったら赴いて欲しい。
詳細には書かれてはいないが、とにかく参加者が豪華である。
アンケートという短い部分ではあるにせよ、荒木飛呂彦氏や佐藤友哉氏といった著名な方が。
またニコニコ動画で著名な春原ロビンソン氏と五月病マリオ氏が漫画に参加。
その他の漫画参加者は、知名度こそ低いものの、雑誌掲載を勝ち取っている未来の漫画家候補がいる。
その他、乙一氏について述べたコラムや書評、二次創作小説といった部分は、アンダーグラウンドな人気を誇る方々が担当。
本格的な作者本ではなく、あくまで同人誌ではあるが、しっかりとした作りで内容も面白い。
購入を検討される方は『U-cafe』にて詳細を確認して欲しい。
Story Seller〈2〉 (新潮文庫)
伊坂幸太郎を読むために購入。
「合コンの話」は、同時間に発生した恐ろしい殺人事件が、
直接的には関係しないものの、妙な伏線になって、全体に
緊張感を与える作品。男女の微妙にずれた心理を
短い会話の中で詳しく描き出すあたりは、これぞ伊坂幸太郎!
とファンならずとも、おおいに楽しめるだろう。