三陸海岸大津波 (文春文庫)
昨年、友人と三陸を旅した。本来の目的は「宮古湾新選組ツアー」だったのだが、宿を「グリーンピア田老」にとった。
田老駅から宿までの間、「津波時避難路」という大きな看板と矢印が目につき、海岸沿いでもないのに堤防があったりする。ふっと大昔に読んですっかり忘れていた、この作品の題名が頭に浮かんだ。あれってここが舞台なのか。地元のタクシーの運転手さんは、元来無口なのか謙虚なのか、尋ねても「はい」とか「ええ」とかいう返事しか返ってこなかったけれど。
実際に有効なのかどうかはともかく、堤防や避難路看板など、昔の出来事の記憶が今の行政にも確実に受け継がれているのを見るのは、失礼を承知で言えば、とても興味深かった。日程がゆったりしていたら役場で話を聞きたかった。
これを読んだ後に三陸を訪れる方、通り過ぎるだけでも実感できて、いいですよ。
津波と防災―三陸津波始末 (シリーズ繰り返す自然災害を知る・防ぐ)
明治、昭和にも三陸地方に大きな津波が有ったとのこと。
津波から逃げるには、情報を詳しくたしかめるよりもまず逃げること。
逃げた高台や高い建物で、情報を確かめればよいとのこと。
本書を読みながら、語り継ぐ方法を考えました。
三陸地方の観光案内、行政などの書籍、ウェブに、
避難経路の地図をつけること。
避難の仕方の原則(まず逃げる)を書く事。
何十年に一度のことなので、今やらないと永久にしないかも。
津波石という、津波の際に打ち上げられた石が、それなりに高いところにあるらしい。
社会見学や修学旅行などでかならず経路に入れているのだろうか。
お城や古墳と同じように、観光、学術、地方の記事に必ず載せるようにするのはどうだろう。
関東大震災 (文春文庫)
丹念な取材を通じて、複数の観点から未曽有の災害を描きだした本書。
災害描写のみならず、震災を通じて露呈する戦前の社会構造の矛盾に戦慄する。
本書は以下のような構成で震災を描写していく。
・震災についての2人の地震学者の論争。経験主義に頼らざるを得なかった当時の科学力の限界を露呈する。
・地震そのものによる被害の描写。
・家庭や薬品工場から起こった火災で、東京と横浜が壊滅的打撃を被る描写。殊に3万8000人が亡くなった
本所被服廠跡の火災旋風の描写はすさまじい。震災による死因の三位が水死であったという事実にも驚く。
江戸時代の知恵を無視して、無理な近代化を進めてきた都市計画の脆弱さが露呈する。
・震災後の東京から、多くの避難民がなんとか脱出しようし、多くの犠牲者が出たさま。
人口に比してあまりに脆弱なインフラだった戦前社会が浮き彫りになる。
・流言飛語にまどわされて虐殺された多くの朝鮮人。新聞や警察も加担し、その勢いは全国に広まった。
筆者はここに、植民地主義に関する民衆の無意識の罪悪感と恐怖を指摘する。
・甘粕大尉による大杉栄ら社会主義者の虐殺。3名が謀殺された事件の描写であるが、異常に生々しく
印象に残る。震災を契機として国家という暴力装置が本性を現す、その場がとらえられているだろうか。
また事件自体が、権力による大掛かりな謀略だった可能性も指摘される。
戦前の社会が抱えていた矛盾が一気に噴き出た震災だが、政府は社会に抜本的な改革を
おこなうことなく、むしろ朝鮮人虐殺などを契機として言論統制などの権力を握り、
このまま終わりなき15年戦争へと突入していく。本書から感じるのは、災害そのものの
恐ろしさもさることながら、それ以上に、近代文明の陰に常にあるリスク、そして常に
権力を膨張させる方向に向かう国家権力の恐ろしさだ。それは戦前社会という特異性に
終わるのではなく、現代の我々にも通ずる普遍的な警鐘となると思う。