ドグラ・マグラ (下) (角川文庫)
世の中には奇書と呼ばれる書物があります。常識という観点では理解し難く、
むしろ常識という物の危うさを逆に揺さぶってくる危険な作品の事です。
この本はまさに奇書中の奇書といえると思います。
狂人の書いた推理小説という設定、胎児の夢、輪廻する世界。読み進めるうちに
誰が正気で誰が狂気か、何が本当で何が嘘か、時間間隔も失われ、もはや判断する
気力すら奪われていきます。
他人の心について無責任に語る前に、自分自身の心の軸がどちらの世界にあるか。
この本を読めば答えが見つかるかもしれません。
尚、実験映画の雄松本俊夫氏によって映画化もされています。桂枝雀師匠の狂いっぷりは圧巻です。
ユメノ銀河 [DVD]
石井聰互の「ユメノ銀河」を観て「映像の生理」のようなものを感じた。
この作品では、映像が生きており、脈打っている。鼓動さえ聞こえる。そうした「生体」としての映像を見事に白と黒の光の息づかいのうちに実現している。ちゃぶ台を挟んでなにも語らず向き合う男女のシーン、動物と化したバスが雨のなかじっと汽車に飛び込む瞬間をねらっているシーンなど、ひとつひとつのシーンで映像全体が脈打ち、血流が流れる音が聞こえるかのようだった。第一級の映画と言えよう。
ちなみに「映像の生理」を知り尽くした作家でまず頭に浮かぶのは「小津安二郎」である。
それにしても私が最近観る映画のほとんどに「浅野忠信」が出演している。手塚眞「白痴」、石井輝男「ねじ式」、塚本晋也「双生児」、相米慎二「風花」・・。「映像」にこだわりのある作家が彼を重宝がると言えるのかもしれない。
たぶん彼を使う作家たちは彼のもつ雰囲気を求めているのだろう。私はあまり好きな役者ではないけれど。
さて、この作品の原作は夢野久作である。松本俊夫が映画化した「ドグラマグラ」を思い出す。そう言えば今は亡き桂枝雀が主演だったなぁ。
ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)
文字通り言葉通りの天才。
ハッと覚醒したひにゃ自分が何者か得体の知れないものに気づいた男の混乱をベースに更に
混迷な理論(でも、これが本質)を屋上屋していく超重厚な密度。
生身という言葉がピッタリ合うほど滲み出る恐怖をまるで科学者のレポートのように詰めこ
みどうにもこうにも首肯せざるをえない次元にもっていくその構成力の凄さときたら...
アンチ・ミステリ、三大奇書...云々のレッテルなんかじゃ括れない一大芸術。
瓶詰の地獄 (角川文庫)
「瓶詰の恐怖」は読者の想像力に訴え、残酷さと哀感を喚起させる傑作。作者の代表作と言っても良いと思う。
作品の構成はシンプルで、1通の通知書と3通の手紙から成る書簡体小説である。通知書の内容は、ある島の海岸で3本のビール瓶を回収したので送付するとの事。問題はビール瓶の中の3通の手紙である。読者に示される最初の手紙は、無人島に流れ着いた兄妹の絶望の遺書である。兄妹は既に幻想を見ている。そして、示される手紙の順番が巧み。読者に示される手紙を順番に読むと、兄妹が味わう煉獄の苦しみ、悪魔の誘いが読者にヒシヒシと伝わって来る。最後に示される、カタカナ2行のあどけない手紙が哀れを誘う。兄妹の所有物に聖書があった事からして、モチーフは"アダムとイブ"なのであろう。それが、無垢→煉獄の苦しみ→禁断の所業という兄妹の運命に見事に反映されている。
他の作品も佳作揃い。特に、美少女を襲う恐怖を描かせたら天下一品だと思う。作者の幻想性と狂気の世界を味合うには持って来いの短編集だと思う。
火星の女 (夢野久作の少女地獄) [DVD]
夢野久作原作の「少女地獄」だと聞いて購入。
原作(とも異なる内容だが)を知らないと、全然物語的にわからないのではないかと思った。
役者が少女ではないのと、成人向けなのは出してる会社のせいか・・・
原作のドロドロ感は多少は感じられた。
知らない人が見たら、やはり後味の悪い気持ち悪さは残ったと思う。
ビデオDVD化していない「瓶詰めの地獄」(内容がだいぶ異なるようだが)
こちらも気になるところ。