明日をどこまで計算できるか?――「予測する科学」の歴史と可能性
「天気と気候の予測には直接的な結びつきがあり、モデルによる予測が天気では失敗するかもしれないが気候ではうまくいくと信じることは、希望的観測以外の何ものでもない。」
著者は数学者で、天気、病気、経済の予測方法とその限界について解説しています。中でも、天気については予測が外れる原因が、観測データの不完全さによるのではなく、モデルの誤差によることを学問的に研究した経験から、きわめて説得力ある形で議論が展開されています。天気が当たらないことを、気象学者は初期条件の違いが結果に鋭敏に反映する「バタフライ効果」やカオスのせいにして、決してモデルの不完全さを認めようとしない姿勢が、著者の経験に基づいて述べられています。
系の性質を第一原理から導けない対象については、モデル化することが問題解決のための第一歩となります。その際、パラメータを多く導入すれば、望むだけ観測した「過去」のデータに一致するモデルを構築することができますが、「将来」の未観測のデータを予測する精度が向上することは期待できません。このことは、工学や計算化学などの分野では常識ですが、最近の地球温暖化の議論とClimateゲート後の顛末を見ると、気象学者の間では必ずしも常識ではなかったようです。
天気も病気も経済も科学的な計算で予測することはできないという著者の主張には賛同しますが、最後に「計算ではなく、行動のときが来たのだ。私には嵐が近づいている気がしている」とオカルトチックな結論が導かれるあたりには、ひどく落胆しました。気候モデルへの批判は説得力があったのですが、病気や経済など専門外の部分については、力不足の印象を免れません。お奨め度は中くらいです。
レナードの朝 [DVD]
昏睡状態の男が目覚めた状況をまっとうに描いたヒューマンドラマ。事実の映画化ということで、思った通りの展開にちょっと・・・それでも目覚めた息子の心に左右される母親の心情が切なくて印象的。
レナードの朝 (ハヤカワ文庫NF)
映画のレナードの朝が好きで購入。
映画では沢山の患者が写っていたが、各自に対する細かい描写はなかった。しかし、本では患者一人ひとりについて「入院に至るまでの経緯」「入院中の生活」「特徴」「L-dopa(エルドーパ)投与までの流れと決意」「観察日記」などが細かく綴られている。
映画ではドラマチックに描かれていた部分もあったのではないかと思うが本はほとんど報告のような形をとっている。
これを読むと、患者それぞれの症状は違うことや薬の投与量が違うこともよくわかる。しかし、その分すこし分厚目の本になっていて、1日で読むのは厳しいかも。読みごたえはあります。
音楽嗜好症(ミュージコフィリア)―脳神経科医と音楽に憑かれた人々
『レナードの朝』の著者が書いた脳と音楽の不思議な話。 脳に大きな障害がありながら何百ものオペラを完璧に記憶している人、
アルツハイマーが進行していて舞台に一人であがることも戻ることも出来ないのに舞台ではちゃんと歌を歌える人、音に色がついて
見える人、等々。 私は脳神経はもとより医学のまったく門外漢ですが音楽は大好き(特にジャズ)なので音楽の不思議さの一端を
垣間見るような気がして。すごく興味深く2度、読み返しました。
オペラCDこの一枚~99トラック+1=100いいとこ取り
一時間で60作品のオペラの聴き所と、一世紀近く前の歌手から現代の歌手までをちょこちょことつまみ食いしていくような感じのCD。悪く言えばごちゃ混ぜですが、オペラを聴く幅を広げるにはなかなかおもしろいと思います。それにしても歌手の名前がしっかりと書かれているのに、一声も出てこない間に終わるのはちょっとひどいです(笑