桶川女子大生ストーカー殺人事件
ザ・スクープで取り上げられた、桶川女子学生ストーカー事件についての取材記録。 文字通り様々な社会の問題点を提示しつづけてきたこの番組でキャスターをつとめる鳥越さん のジャーナリズム精神を読みとることができます。
警察に必死に助けを求めていたにも関わらず、愛娘をストーカーに殺害され、さらにマスコミによって
被害者の名誉を著しく傷つけられたご両親のお気持ちは、察するに余りあります。 その中で真実を追究することで被害者の名誉を回復し、さらに警察の不手際を追求し、 「ストーカー規制法」の制定まで持っていったところにジャーナリズムの本来の姿を見るような思いがしました。
しかし、時としていい加減な情報を伝えてしまい、マスメディアに踊らされた社会全体が加害者となってしまうところに 現在の社会の怖さがあります。
被害者が仲良くしていた娘さんから報道に携わる人たちへ 「みんなに情報を伝えることの責任についてよく考えてほしい」 というメッセージがありますが、
また、情報を受け取る私たちも、ニュースや新聞・雑誌に書かれていることを鵜呑みにせず、自分で かんがえて行動しないと、知らないうちに加害者となる危険性があるということを強く感じさせられました。
遺言―桶川ストーカー殺人事件の深層
「FOCUS」の記者だった筆者が桶川で起こった、いわゆる「ストーカー殺人」を独自に追いかけた記録です。この事件をきっかけに当時「ストーカー」という言葉が一気に人口に膾炙したのですが、この数年前にアメリカから入ってきた「ストーカー」という概念が、識者からの度重なる警鐘にもかかわらず、一向に定着せず、こういった痛ましい事件があって初めて認識されるという現実には、これからもまたきっとという諦めも付きまといやり切れない気持ちにさせられます。本書は半ば当事者である筆者が絶妙な距離感を保ちつつ事件の詳細と本質に迫るという、この手の本でできそうでいてなかなかできない立ち位置に見事に立ってみせており、その筆者の在り方自体が一読に値する稀有な一冊であるような気がします。
桶川ストーカー殺人事件―遺言 (新潮文庫)
事件ものは難しい。特にこの事件のように、悪魔的な犯人像、行為の残忍さ、警察悪とセンセーショナルな要素がそろったものは特に。
よくニュース映像に悲しげなBGMを入れる馬鹿なディレクターがいるが、この筆者は抑えた筆で、しかも決して単調にならずにまとめている。ぜひ全編読んでから目を通して欲しいのだが、それだけに文庫版後書の、ある一文には涙を禁じえない。解説を書いている被害者の父親の態度も(事件を通して)立派だ。
衝撃的なのは、世間に知られているように、埼玉県警が被害者の訴えを無視したということだけでなく、殺人発生後も主犯をわざと逃がしていたらしいということである。確かに当時、著者の寄稿するFocusが警察より先に犯人が北海道にいるという記事を載せて驚いたことがあったが、とにかく凶器の捜索なども全く行った形跡がないのだそうだ。
著者は懲戒免職された下級警官3人はトカゲのシッポ切りだという。そして、自殺した(本当に自殺なのだろうか)主犯と警察上層部の癒着を強く示唆している。事件は全然終わっていない。ぜひこの文庫本がミリオンセラーになって、著者には続編をものにしてもらいたいものである。