ノルウェイの森 【スペシャル・エディション2枚組】 [DVD]
まず、直子を演じた菊池凛子ですが、直子役には年をとり過ぎている感じもします。それに、下品とは言わないまでも、上品な感じは出ておらず残念。その意味で、「トニー滝谷」の宮沢りえは素敵だった。あの透明感は、村上春樹作品にピッタリ合っていたし、イッセー尾形の演技・雰囲気も良かったなぁと思ってしまいます。
ミドリ役の水原希子は、モデルで役者は初めてのようですが生命力に溢れたこの役では、棒読み的なセリフまわしがかえって魅力的。頬やうなじから発せられる若さは、それだけで生を表現しているかのよう。
そして、主人公の松山ケンイチ。さすがですね、どんなタイプの役もこなしちゃう。目線や微妙な表情がいい。
衣装、ロケ地、時代考証、トラン・アン・ユン監督のクラシックなテイストともマッチしています。ただ、村上春樹作品にある、いい意味でのスノッブさはないように感じます。
そして、マーク・リーピンビンの美しい映像。登場人物を真ん中に置かないアングルもユニークで、これも監督のテイストに合っています。
上下2巻の話しを133分に凝縮しているので、カットしたエピソードがあるのは仕方ないことですが、直子の自殺の後で二人で『淋しくないお葬式』をあげるエピソードがカットされているので、レイコが、ワタナベ君に横恋慕してて、直子が死んだのをいい事に、ワタナベ君とセックスしたとしか思えない。これはイカンでしょ。
突撃隊の柄本時生、永沢役の玉山鉄二はピッタリでした。ただ、登場場面がもっと多くてもよかった。レイコ役の霧島れいかは、印象は悪くなかったですが、歌がイマイチなのはねぇ。それに、(まぁ、版権の問題があるんでしょうけど)肝心のビートルズの歌を歌わないし。「イエスタディ」「ミシェル」などはともかく、彼らの心象風景を象徴している「ノーホエア・マン」は歌って欲しかった。
何はともあれ、鑑賞後は原作を読んだ時に感じた何ともいえない喪失感を味わいました。この言葉に出来ない感覚が、この物語の核なんですよね。たぶん。それは、ちゃんとこの映画にもあったと思います。
良くも悪くも強い印象を残す映画であり、私は肯定的に評価したいです。
Norwegian Wood Movie Tie-In
日本語で読んだ時はそれほどいいと思わなかったのですが、十年以上経って英語で読み直して見ると凄く良く感じられました。これは読み手である私の方の変化によるものなのでしょうけど。このある種の日本語的ウェットネスを湛えた文章がどのように英訳されているのかは大変に興味のあるところでしたが(村上さんの他の作品の英訳というのはもっとイメージが描き易いように思うのです)、実に見事だったと言えます。
友人にも勧めました。英語で小説を読みたい人(つまりこれから読んで行こうとしている人)にはすごく良いのではないかと思います。何かを失ってしまった人達の深い悲しみが切々と全編に流れていて(英語版でも)、それが絶望の淵まで行きながらある「哀感」となり、ゆっくりと持ち上がって行く様の感動が瑞々しく描かれています。
Norwegian Wood (Panther)
私も思わず表紙のデザイナーの名前を確認してしまいました・・・・。(原版のデザインがかなり話題になっていたのを思い起こすと、ちょっと理解に苦しむ。)
この翻訳の前に、Alfred Birnbaumというひとの訳で出てたようですが、この分は,海外向け翻訳のための村上氏自身による監修がなされているとか。 はじめ、手にしたとき(赤・緑本のかさに比べてあまりにうすくて軽いので、あまり翻訳本を読んだことのない私は’これって概訳?などとおもってしましました)
以前にサリンジャーを日本語訳で2冊くらいよんだ時、そのあまりの訳の雰囲気の違いに唖然とし、片方では非常に感動するのに、片方では主人公に共感さえ出来なかったことを思い返し、この小説でも、このような、主人公のしゃべりかたや、日本固有の若い世代の世相を切り取ったような状況設定が、うまく他言語に置き換えられるのかと興味があった。ネイティブのニュアンスがわからないのでそのあたりはなんともいう資格はないが、かなりきっちりと丁寧なニュアンスが出してあるように思えた。今回あらためて読み直してみて、自分なりのいろいろな発見もあり興味深かった。
クリスマス・ソングス
「静かなクリスマス」向きです。
とてもきれいな歌声で、目を閉じるとオシャレなジャズバーに来てしまったのかと錯覚するほどです。
手嶌さんの歌声はおしつけがましいところがないのに、とても個性があって、心が洗われるように透明です。
評価が四つなのは、英語のカヴァー曲のアルバムが続いてますが、日本語のオリジナル曲ももっと歌ってほしいという個人的な希望からです。
ノルウェイの森 上 (講談社文庫)
どこで読んだかは忘れたが、
村上春樹は自身が飲食店を経営していたときに得たノウハウとして
「飲食店が繁盛するコツ」をエッセイに書いていた。
曰く「10人のお客さんが来たとして、10人全員にそこそこ気に入られるより、
9人に嫌われても良いので1人に猛烈に気に入ってもらえたほうが良い。」とのこと。
その猛烈に気に入った一人はその店のリピーターとなり、
さらに口コミで人を連れてくる。
口コミで店に来た人の何人かは、またさらにリピーターとなるらしい。
「繁盛=ベストセラー」を意識しているかどうか不明だが、
彼の作品は明らかに
「多くの人は拒絶反応を示すが、一部は猛烈に好きになる」
と言った類のものだろう。
そう言う私も、この「ノルウェイの森」をきっかけに
春樹リピーターとなった1人だが、
拒絶反応を示したレビューが予想以上に多いことも興味深い。
確かに村上春樹の何が良いかを説明するのは難しい。
逆に「良くないところ」を説明するのは簡単だ。
物語に脈略がない、簡単に人が死ぬ、意味不明なセックス、、等々。
それにしても、私を含めた多くの人が魅せられるのか?
ひとつ確実に言えるのは、流れるような文章表現力だろう。
例えとしては苦しいが、音楽を楽しむように
我々は読解を楽しんでいるのではないか。
音楽にも歌詞やメッセージがあるが、
それよりも心地よい音の流れそのものを楽しんでいるはずだ。
同じように私たちは、物語やメッセージよりも
村上春樹の心地よい文章の流れを楽しんでいるのではないだろうか。