ウエンカムイの爪 (集英社文庫)
同じくまの名前を持つ私ではあるが、くまの生態はよく知らなかった。寝た振りや、無視が効くのだというように思っていた。いったん人間を襲うと決めた熊にはそういうものは効かない。とくにヒグマは今本州に出没しているツキノワグマとは全然違い、危険である。そういう未知の世界の実態を教えてくれる教養小説の一面と、それでも熊に魅せられていく主人公たちの心の奥を探る小説である。「アイヌ神謡集」を読んだばかりの私には、いい熊のキムンカムイ、悪い熊のウエンカムイの違いがよく分かる。しかしどちらも神なのだ。ゆめゆめ容易には近づけない。導入の緊張と中盤のたるみ、そして後半部の盛り上がりで、一気に読ませてもらった。処女長編とは思えない上手さではある。題材が面白いだけに、気になる直木賞作家が出てきた。
虹色にランドスケープ (文春文庫)
短編が7つで虹のように一つの物語になって行くという構成.第一話だけでも独立できるような仕上がりである.随所に現れる二輪の記述は長く乗ったライダーならではの記述だと思うが,片岡義男が単なるオートバイの小説で終わっているのに対し,こちらは人生を語っている.
邂逅の森 (文春文庫)
東北の狩猟で生計を立てる「マタギ」の物語。作者ならではの東北の雄大な自然を満喫できます。東北の自然は本当に神がかっていて、自然の力強さを我々に見せてくれます。秋田、山形という設定も地元の私には強く訴えかけてきます。
本作の凄さは自然賛歌だけの物語ではなく、一人のマタギの人生を描ききっているところにあるのです。その人生もすざましく濃いものであります。富治の辿ってきた人生、出会った人々、恋愛、全てが読者の心に響きます。本当に良い読書体験でありました。
人間を自然の一部分として捕らえた時に、自然と対峙しなければなりません。その経験は現在では殆ど体験することが出来ません。本書に触れることでその一端を垣間見ることが出来ます。