夜のゲーム [DVD]
とかく“○○映画祭出品作品”というのは不可解な作品が多いように思います。
本作も,日本の第20回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で特別賞を受賞したという作品なのですが,結局何が言いたかったのかよく分からないまま悶々と見てしまいました。
原作は,小説家オ・ジョンヒssiの同名小説ですから文学的ではあるのでしょうが,映像的には冒頭の双眼鏡シーンに始まり,ダンプの運転手に殴られるシーン,煎じ薬として使われる蛙たち,豊満な乳房を映し出した着替えのシーンなど,音の世界を失った主人公の説明的な導入部としては意味不明さを感じます。
主人公ハ・ヒギョンssiの役柄は,言葉と聴力を失った35歳の女性ということでセリフこそありませんが,常に“制御された演技”を要求されるわけで,目つきや口元や仕草など,官能的な熱演が見どころとなっています。
「夜のゲーム」の意味するところが,夜毎に父親とする花札なのか,女としての性的行為なのか,おそらく後者を意味し,逃亡犯に襲われることによって女としての快楽に目覚めるといった辺りを描いているのだと思いますが難解です。
ちなみに,本作の原作本(波田野節子訳)が今月刊行されるみたいなので,それを読んでからもう一度見て見たいと思います。波田野節子さんといえば,NHKラジオハングル講座の応用編を担当された方で,以前にも呉貞姫ssiの小説集を翻訳されています。
興味のある方は,段々社から「金色の鯉の夢―オ・ジョンヒ小説集」として発刊されていますので読んでみてください。作者が38度線を越えるまでのお話や,越えてからのお話など,とても興味深い短編作品です。
苦役列車
本書には、芥川賞受賞で話題になった表題作ほか1篇が収録されている。その「苦役列車」の方は、まずまず期待していた通りのおもしろさであった。こぢんまりとはしているが、最後にやはり藤澤清造の名が出てくるところなど、演出もうまく利いていて、小説として体よくまとめられていると思った。また、わずか40頁ほどの「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」の方もなかなかよい。古本を買うシーンが出てきて、こういうのは古本好きにはたまらない。主人公が買う本がまたシブくて、唸ってしまった。
さて、西村賢太の魅力は、何といっても自分の言葉を持っているところにあると思う。この作家にしか使えない言葉があるのだ。あまり馴染みのない語彙や言い回しがそこには多く含まれ、辟易する読者もいるかもしれないが、作家の固有性はまずその言葉にこそ表象されるものである。それらは何も奇を衒って使われているのではなく、長い年月をかけて熟成させ血肉化してきた言葉なのだ。他に名を挙げれば、野坂昭如、車谷長吉、町田康なども同列に並べることができるかもしれない。私はこういう作家たちを大切に読んでいきたいと思う。
葬送 平野啓一郎が選ぶ”ショパンの真骨頂”
絶対に買いですね。
聞いていて、ふと、平野啓一郎さんが小説「葬送」を書かれていたころの風貌を思い出しました。
「葬送」は年々、重みを増してるような気がします。
芸術も消費されるためだけに作るられることも多い世の中で、作家がある決意を持って、自分の作品と真剣に向かい合い
そしてそれが、色あせないのは奇跡的なような気がします。
ただ、純粋にこの音楽に向かい合ってみたいと思わせる輝きが、このCDにはつまっています。
海炭市叙景 (小学館文庫)
函館市民が映画化した貴重な作品です。佐藤泰志の出身地である函館の情景が美しく描かれている。どこにでもいるような人々の生活が,短編を組み合わせながら,一つの世界を作り出している。誰にも気づかれずに電車や連絡船がその街に住む人々の人生を運んでいく。