まわりみち極楽論―人生の不安にこたえる (朝日文庫)
芥川賞受賞の現役僧侶が書いているものだが、文字自体も読みやすく内容が項目別に分かれているので非常に読みやすい。(最初から順に読まなくても良い)
仏教の言葉を使い、それを分かりやすく説明している。一言の言葉の重みや強さが仏教にはあるんだと感じた。
普段の日常生活に何らかの悩みや不安のある方に、この本で少しでも心と体が楽になれば幸いという作者の思いが良く伝わる本だと思った。
中陰の花 (文春文庫)
表題作では、色々と不思議なことは経験したこともあるものの、現役僧侶の主人公(と作者)にとっても死というものは何かよく分からない。そのぼんやりした死を正面から見つめて、医者や拝み屋、一般の人々が思い思いの立ち回り方をする。結局、此岸の人間が思い思いに亡くなった人間を思い、コミュニケーションを取っていくしかないようだ。現役僧侶が自分の宗派にとらわれずそのような思いを書いたことで、この作品は評価を受けた。が、他のレビュアーも書いているように、その程度のことは近親者を亡くした経験のある人は、誰でも感じて知っていることだろう。僕は新しい視点を期待したので点は渋くつけたが、敢えてこの作者を擁護するとするなら、その書きぶりが上品だという点である。かくも死を題材に小説を書くということは難しい。
小説としては、僕は「朝顔の音」の方がデキが良いと思う。ただ、女性、特にこの主人公と同じようにレイプと堕胎を経験した女性がこの本をどのように受け取るのかはよく分からない。もしかしたら不快に思う方もあるかもしれないので僕は判断保留せずにはいられない作品だが、こういう問題は表現の世界から避けて通し隠してしまうのではなく、誰かが題材に取り上げなくてはならないだろう。
どちらも作者からは遠い視点や境遇を持った人々の死者への思いや祈りが出てくる。完全に知ることはできないそのような思いを敢えて書いた作者の心意気は買う。点数付けに迷うが本当は3.5点を付けたい。本来「生きること」を真摯に説こうとすると、必ず死は避けて通れない論題のはずだ。死んだこともない我々人間が、おこがましくも他人に生や死を説こうとする嫌らしい言葉に溢れた現代では、この作者の控え目さはやはり真摯ではある。
現代語訳 般若心経 (ちくま新書 (615))
般若心経の本は売れるらしく、相当怪しげな内容の本も見受けられるが、本書は比較的筋のいい本だと思う。まず、「般若心経は難しい」とはっきり宣言してごまかさないところがよい。そう簡単に分かるものではないが、目いっぱい努力して、一歩でも二歩でも分かってもらおうという筆者の誠実な姿勢は好感が持てる。
次に、「縁起-無自性-空」の問題に色々たとえ話を混ぜながらじつに丁寧に説明している。これもこの本の筋のよさである。この問題に興味をもたれた方は中村元博士の「龍樹」も併せて読まれると理解が深まると思う。
原始仏教と大乗仏教の違い、それから大乗非仏説については、もっと明確に書いて欲しかった。ここをごまかしてはいけない。原始仏教の話と大乗仏教の話がないまぜのまま書かれている。読んだものは混乱したまま「分かった気」になってしまうだろう。星一つ減ずるゆえんである。