戦後短篇小説再発見1 青春の光と影 (講談社文芸文庫)
再発見、と言う見出しに惹かれて購入。大江健三郎、三島由紀夫、宮本輝、北杜夫、などの著名な作家もおり、最初はかなり期待していた。
題名を読めばわかるが、青春の1ページといった風の短編集が収録されている。風景への憧憬や女づきあいなど、様々な方面から青春を描いている。光と陰、といってもどちらかと言えば暗い印象の方が強いが、これはこれで良いと思う。
ただ、思ったよりもつまらなかった。本の冒頭部分でも編集者が『原稿用紙六十枚程度の未だスポットライトの当たっていない短編の名作を選ぶのはかなり無理がある作業』と言ったようなことを述べているとおり、それぞれイメージの違いが大きすぎ、これは好きでもこれは全く面白くないという様なことになると思う。実際にそうで、太宰治や中沢けいの作品は比較的面白く読めたが、金井美穂子の短編は句点の連続でつなげた冗長な文章が気に入らず、途中で読むのをやめてしまった。規定のページ数作品をそろえるためか、ええ! こんな物が本当に名作なの?、という事も多々あり、全体としては不満が残った。
自分は古本で買ったから良かったが、この本に950円払って読む価値があるかと言われると正直微妙な所だと思う。講談社文芸文庫は当たりでもはずれでも値段が高い。
止島
4月8日80歳で亡くなった小川国夫の遺作短編集である。表題作「止島」他10編皆これまでの作風と同じく、淡々と身辺で生きている人の姿が理屈なしで浮き彫りにされている。ただ、「未完の少年像」には、少し固すぎる話になったが、文学談義になっていて、これがなかなか参考になる。近頃思いを凝らしていることが級友に出会って口をついてでたのである。
「私が小説を書く場合は、ブカブカする浮島の上を歩いているかのようで、とりとめない」のだという。現実には、読む人を傷つけたり、極端な場合は死に追いやることもありうる禁句といものがある。しかし、架空の小説は、言葉による実験であり、何を書いてもいい自由な世界。それゆえに甘えがでてしまい、かえって本来の厳密さが見失われることになる。
特攻隊員の実話らしいことを紹介している。「ぼくはお国のために死にます」と昼間笑顔で言っていた男が「鹿屋にもどりたくない」と寝言で言っていたという。美談の陰の真実の声が問題なのである。小説家は死者とも対話できなければならない。暗い一対一の時間に入って、彼がいろいろなことを聞き出し、自分も応対するのである。また、自分の心に向かい、見極めようとして書く。【内向の世代】と言われてきた著者たちには当然の姿勢であろう。
真の幸せとは、安楽とか長寿とか、自然の幸せではなく、神の国のために犠牲になり、貢献することが究極の幸せである。殺されても殺さないのが最大の勇気であり、非暴力主義でもある。殺されることが絵空事ではない時代に入ったことを感じつつ…