75~ラスト・バースデイ・ライヴ!
この演奏の頃の彼のヴィデオを見ると、今思えば近づきつつあった死を感じさせる風貌や挙動をしていたように思う。ただし、音を聞いている限りでは、僅か二ヵ月後に彼岸の人となるとは、とても思えない演奏である。My People以降のワールドミュージックを洗練させ、エネルギッシュかつ野生的で同時に精妙極まりない音楽に昇華させていった彼が最後に残した遺産である。
ザヴィヌル―ウェザー・リポートを創った男
最近はその知名度がいまひとつの印象があるが、やっていることは凄いジョー・ザビヌル翁(失礼!)これは、そんな彼の自叙伝ではないが、彼への取材を回想録的にしかも、第三者的に記述した非常に優れたものである。JAZZ関係の書物を多く目にしてきているが、かつてこれほどに密度の濃いものがあったであろうか?JAZZファン必見の一冊である。
75~ラスト・バースデイ・ライヴ! [DVD]
ザヴィヌルはウェザーリポート後は、ジャズというより
ワールドミュージックに近いものになった。そのためか、
いまいちウェザーリポートの延長・オマケとしてみられがち。
でも、そんなこたあどうでもいい。マイルスと同様、最後の
最後まで進化をしていた音楽家であった。そんな爺に感動。
全曲秀逸の一品だが、「ZANZA'U」とショーターとの共演
「IN A SILENT WAY」がたまらない。
ジョー・ザヴィヌル&ウェザー・アップデイト [DVD]
とにかく参りました…。スティーブ・カーンの空間を切り裂くような鋭角な、だけど奥行きと広がりと浮遊感を持つ美の極致のようなギターの旋律が、あの後期ウェザー・リポートの音宇宙の上に乗っかっている…。音源が今のところこれしかないのが本当に悲しいほど、不思議で美しく透明で浮遊する、それでいてジャズが持つわくわくするような展開が繰り広げられています。管楽器の代わりにギターという意味ではザビヌル・シンジケート的な音ではあるものの、ザビヌル・シンジケートとの無国籍な(あるいはアフリカやインドなどの第三世界的な)サウンドビジョンまでは発展していない、かなりウェザー・リポート的な(あくまで西洋側の)美しさや流麗さが醸し出されているように思いました。「Update」から「Consequently」にかけてスティーブ・カーンがメロディを弾く部分が自分にとってのこのDVDのハイライトではありますが、ウェザー時代の曲もまた違う趣で、その意味では文句なしの演目・演奏だと思います。
DVD作品としては残念ながら音がイマイチで、レベル調整が雑で一番の盛り上がり部分で録音レベル(ボリューム)が下がったりすることがあります。また、メンバーがザビヌルの細かい指示を待って演奏している感じが否めず、ザビヌルが何をやっても「試している」ような感じがすることがちょっと気になります。
それでもこのメンバーで、しかもライブ映像が見られたのは貴重なことであり、発掘してくれたレーベルに感謝したいです。
JOE ZAWINUL on the creative process―ウェザー・リポートの真実
この著者が雑誌記者時代にザヴィヌルから直接楽譜を借りて音を出し、ショックで熱が出たというエピソード、その掲載誌を読んだクチである。実は同じような体験でジョー・パスの教則本を片手にギターを弾き、自分も背筋が寒くなった覚えがある。とてもヘンな指使いなのに出て来るのはゴージャスなコード。世の中には凄いことを思いつく人がいるのだな、と。
それを永年のテーマで持ち続け、ほとんど執念でその体験の続きを実現させ、しかもこれだけの本にまとめあげること、これは編集者としては恐らく究極の夢ではないかと思う。ここに公開されたザヴィヌルの手書き譜は、まさに世界中のファンの宝、そして歴史のダーク・ゾーンを世の中に明らかにする壮挙といっていい。私も本文に目もくれずさっそく汚い字を頼りに(笑)ヴォイシングを再現すると叩く和音1発1発が当たり前だがウェザー・リポートのサウンドなのである。これにはたまげた。それをまだウェザーが存在する20年近く前に体験した著者の心境はいかばかりであったろうか。例えが悪いが核ミサイルの発射ボタンに触ったような感触だったのではないか。
ザヴィヌルの存在の大きさについては、今更論ずる必要も余地もない。ウェザーよりはマイルスとのコラボレーションの中から生じる謎の方が私には重大な関心がある。「ファラオズ・ダンス」はイメージはザヴィヌルの伝記で知ってはいたが、こうして楽譜で表現されると強力なインパクトがある。ちょっとだけ、自分のバンドでカバーしようかな、などと軽い気持ちでいたが本書で言われている通り、シンプルに聴こえるものが実は複雑なハーモニーでできていた。これはその通りに演奏はできてもとても「スタンダード」ナンバーのようには扱えない。まさしくザヴィヌルの音楽である。
この本についての断を下すつもりは全くない。ただひたすら、ザヴィヌルの思考のかなりの部分を、日本語で届けてくれた功績に対して謹んで星5を献上する。