シュピルマンの時計
著者は映画「戦場のピアニスト」の主人公ウワディスワフ・シュピルマンの実子。現在は福岡に住み、九州大学等で日本近代政治思想史を教えている著者が、父の思い出や映画について綴ったエッセイです。2003年9月に出版されました。
あの映画を東京で見たときに、ドイツ語のやりとりの場面に付された日本語字幕に首をかしげたことがありました。ドイツ兵が皆、虐待対象のユダヤ人に向かってDu(お前)というぞんざいな言葉で呼びかけている中、ただ一人ホーゼンフェルト大尉だけはシュピルマンにSie(あなた)と敬語を使っています。しかし日本語の字幕ではこうした差異が示されず、大尉までがシュピルマンに高圧的に「お前呼ばわり」しているように訳されていました。これではホーゼンフェルト大尉の人柄が正しく伝わらないのではないかという懸念から、映画のDVD版「戦場のピアニスト [DVD]」のレビュー(2003/05/05付け)で指摘と提言をしたことがあります。
私が感じたのと全く同じことを子息のスピルマン氏がこの著書の中で書いています。
「ドイツ人将校はシュピルマンに対して敬語で話しかけているのだ。実はこれはささいなことのようだが、とても重要なことなのだ。ユダヤ人として追われる立場の男に、敬語で話しかけるドイツ人将校。そのことひとつからも彼の人間性がよくわかる。
ところが、日本語字幕ではそのニュアンスが消されてしまっている。」(105頁)
氏によれば、ホーゼンフェルト大尉はもともと高校教諭で、戦時中もナチスの政策に疑問をもち、数多くのユダヤ人を組織的に救出していたらしいとのことです。
ですから映画の中で大尉がシュピルマンに話しかける際のドイツ語敬語のニュアンスが日本語字幕に反映されなかったのはきわめて残念です。ドイツ語の分からない多くの日本人に大尉の人柄を誤って伝えたあの日本語字幕の罪は小さくないといえます。
ピアノピース 坂本龍一 戦場のメリークリスマス (ピアノ・ピース)
まず「ピアノピース379 戦場のメリークリスマス/坂本龍一」というのが同じくピアノピースから発売されてますが、商品寸法を見たところ同じ物ではないようです。
私が持っているのはこちらのほうなんですが、店頭に行けば今でも普通に売られてます。私が購入したのも発行日が2009年なので、アマゾンでは更新されてないみたいですね。
このピアノピースは表紙が黒く光沢があり、曲名の部分も金色で光っているので見た目が立派だし、この曲しか入っていないので薄く扱いも手軽です。
私も購入するとき散々迷ったのですが、オリジナルバージョンとはどういう意味かってことです。
坂本龍一さんが直接監修した楽譜は「アヴェクピアノ」と「coda」に収録されたバージョンの二つなんですが、どちらもyoutubeで検索すれば聞けます。
私が一番気に入っているのはチェロとバイオリンのトリオ演奏によるバージョンで、これは「1996」というタイトルが付いています。できればこのバージョンをピアノで弾きたかったのですが、トリオ演奏なのでピアノ部分だけ抽出した楽譜というのがありません。
それで上記のアヴェクとcodaのバージョンは1996と聴き比べると迫力に欠ける印象があったので、しかもピアノピース525円と比べて値段がかなり高いので、こうなりゃこれでいいかと思い購入しました。
1996と比べてこのピアノピースはちょっと違うなと思う所もあるのですが、演奏時間はだいたい4〜5分かかるので量は他のバージョンと比べても同じです。これにはイージーバージョンも付属してますがどうせやるならオリジナルでしょう。イージーとオリジナルは似てるとは言っても違う楽譜であることに代わりはありませんから最初からオリジナルのほうをやるべきです。
盛り上がりの部分「じゃっじゃっじゃっじゃ じゃっじゃっじゃっじゃ・・・」は右手指を全て使うので迫力あります。両手ともフラットが5個ついているので慣れるまでは大変だと思いますが、メロディは共通した部分が数多くあるので根気強くやりましょう。
私が最終的に弾けるようになったのは購入してから3ヶ月ぐらい経った後だと思います。
ちなみに☆4にしたのは上述の通り1996が理想だからです。
戦場のメリー・クリスマス
昔小学生だった僕は、このアルバムをアナログレコードで買った。映画自体は、100回以上も見ている。いまだに、ナンバーワンの映画である。CDの時代を迎えてしばらく店頭で見かけなかったが、たまたま入った店においてあったので、うれしくなって2枚も買ってしまった。ちなみに、輸入版も買ってしまった(こちらはジャケットが違う)。携帯の着メロも戦メリだったりする。ほとんどビョ-キだ。このビョ-キは死ぬまで続くと思う。
戦場のピアニスト [DVD]
この映画はドイツ語の台詞がひとつのカギとなっています。ドイツ軍は皆、ユダヤ人をdu(貴様、キミ)呼ばわりしています。Duはよほど親しい友人か、見下した相手に対してしか使わない二人称です。横一列に並ばせたユダヤ人たちの中からドイツ兵が恣意的に何人かを一歩前に出させた末に射殺する場面がありますが、この時もドイツ兵の台詞は「Du!=お前(前に出ろ)」という一言です。
しかし、隠れていたシュピルマン(ドイツ語ならシュピールマンSchpielman=演奏者、を連想させます)を見つけたナチのホーゼンフェルト大尉は彼をduではなくSie(あなた)で呼びかけます。Sieというのは初対面の人に呼びかける丁寧な二人称で、ドイツ人は親交を深めるうちに、「これからはSieではなくduで呼び合わないか?」と尋ね合った末にようやくduを使うというのが一般的です。
ですからこそ、Sieで呼びかけられてシュピルマンは目の前の将校が他のナチとは違って自分を人間として遇してくれていることに一瞬にして気づくのです。大尉の「ピアノを弾いてくれますか」という比較的丁重な依頼を受けて、おそらく自分は曲を弾き終わったところで殺されることはないだろうというかすかな確信をもってシュピルマンはピアノに向かったはずです。
英語にはドイツ語のようにduとSieという二種類の二人称がなく、すべてyouで表現するため、英訳台本をもとに日本語字幕を作るとドイツ語の台詞が正しく翻訳されません。劇場公開時の字幕では大尉があたかもduで呼びかけているような乱暴な日本語になっていました。DVDとビデオではぜひ改善してほしいものです。さもなければ、シュピルマンを助けた大尉の人物像が正しく伝わらないことになるでしょう。