書物愛 日本篇
書物愛をテーマにした本書。夢野久作「悪魔祈祷書」、島木健作「煙」、野呂邦暢「本盗人」、出久根達郎「楽しい厄日」等9篇の作品が収録されている。何れも編集解説者である紀田順一郎にとって印象深い書物に関する小説である。本書に収録されている作品のひとつが由起しげ子(1902~1969)の小説「本の話」。戦後再開された第1回目の芥川賞を受賞した作品である。“海上保険の本”という一般になじみのない本をテーマにした小説である。しかし、本に対する人間の思い入れの強さがしみじみと伝わってくる良質の小説であり、海上保険のことなど全く関心のない読書人も興味深く読める。ところが、「本の話」を、21世紀初頭の今日、書店で買って読むことはできない。図書館か古本屋で探し出して読むしかない。書物愛に関する本を自分の所有物として簡単に入手して身近に置けない日々が永らく続いていた。何と不幸なことだったか。そんな訳で、本書の出版を大歓迎する。
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