トウキョウソナタ(竹書房文庫た1-1)
あいかわらず黒澤清のシュールさは秀逸。オーバーリアルな設定も、身近に感じさせる演出。舞台挨拶の生キョンキョン、井川遥もイケテルし所々に織り込まれたユーモアもさすがの一言。こりゃヒット間違いなしだな。
トウキョウソナタ [DVD]
「時代閉塞の現状」(石川啄木)にもっとも真摯に対峙している表現者を1人挙げるなら黒沢清になるのではないか。表象の強度に戦慄しつつ、「トウキョウソナタ」は1本の映画にしておくのは惜しいほどで、いよいよ漱石やゴーゴリのような作家を想起させる仕事である。
登場人物は観衆同様迷いまくっている。迷いすぎはよくないかどうかもいい切れないくらいに。つぶれるようなものはつぶしまおう。そうやってバラバラになったものがなお、一瞬ひとつになったら奇蹟だから。
ものすげー可笑しい階段や車のシーンとかを撮れる才能があるのにまだ迷いなんてぜいたくな監督ではある。食事のシーンでは「家族ゲーム」(森田芳光)を過去のものにしてしまっている。作品の終わらせ方は芸術史上なかったものではなかろうか。作る立場としては、空港でロケできないのならリムジンバスの乗り場でやればいい、とかちょっとした部分でも励まされた。ユーモアたいせつやで。