美女いくさ
読売の読書欄に,磯田道史氏が書評を書いて曰く,'戦国最大の勝利者は、信長・秀吉・家康ではない.この国の支配者を自分の子孫で埋め尽くす,という意味でいえば,別に,女の天下人がいる.本書の主人公・小督(おごう)である'. 仰天して早速読んだ.小督は浅井三姉妹の下の子で,長姉は後の淀殿である.この作品は小督十歳 (1582) に始まる約30年間を描く.この間小督は三回の結婚を重ねるが,次第に正気を失ってゆく養父秀吉を見るにつけ豊臣家にいたたまれなくなり,秀吉の娘として徳川家に嫁し,秀忠の 6 歳年上の正室になってやっと心の安定を得るまでの心理描写は説得的で見事である.この後に関が原の戦,大坂の陣と小督にとってはむごい動きが起こるが,そこは信長の姪だけあって,腹を括ってひたすら徳川家のために子を生み続ける.そうして遂には娘の和子が後水尾天皇の中宮として入内するに至る.それでも小督は十歳の時に住んでいた安濃津 (今の津) の伊勢湾の眺めが忘れられない... でこの長い作品は終る.私は充分堪能した.ただし,この時代が血なまぐさい戦の連続にも拘らず,日本文化史の一つの頂点だったことにも少し作者の眼が向いてくれれば,物語は一段と充実したろうに,とも思う.ないものねだりかも知れない.推薦.
美女いくさ (中公文庫)
お市の方の娘、茶々、初、小督3姉妹の3女である小督(おごう)を通して描かれる戦国時代の物語。叔父は織田信長、父は織田信長に討たれた浅井長政、母は豊臣秀吉に討たれるも、秀吉の養女となり、最初に嫁いだ佐田一成とは仲むつまじくも無理やり秀吉に離縁させられ、秀吉の甥の秀勝に嫁がされるも夫は戦死、その後、徳川家嫡男秀忠(2代将軍)に嫁ぎ、2男5女を設け、徳川将軍家反映の礎を築く小督の波乱盤上の人生がテンポよく書かれています。過酷な運命に泣き、慄き、恨みながらも、世の中を冷静な目で見つめ、時に振り回されながらも自分の人生を切り開き、毅然と生きる姿に感銘しました。戦国時代から徳川幕府初期までの歴史をよく知らなくても、この時代の動きが分かりやすく書かれているので楽しめます。歴史的事実だけ抽出しても壮大な物語ゆえか、最後はまとまりがつかなくなった感じで終わってしまったのが少し残念で星マイナス1にしました。