Imagine Project
今年70歳になるハービー・ハンコックは、代表作「カメレオン」のように、そのスタイルを大胆に変身させながら、時代を乗り切り、第一線に立ち続けてきました。マイルスとの王道ジャズから、ギラギラのファンク路線へ、ラップからワールド・ミュージックまで。常に、時代を見定めるその眼力。誰も真似できないものがあります。
そのハンコックが近年大成功を収めているのが、「世界中のミュージシャンとのコラボ路線」。2005年の「ポシビリティーズ」、2007年の「リヴァー」、2008年の「ガーシュウィン・ワールド 」など、どれも大ヒット。お金儲けの新たなビジネス・モデルを構築してしまったハンコックは、まさに、新たな音楽的ピークを迎えたと言えます。そして本作でも、ハービー・ハンコックは完璧な「商品」を作りあげています。世界中の著名ミュージシャンと、コラボしまくるハンコック。大ヒット間違いなしでしょう。
しかし、大昔からのハンコックの大ファンとしては、どうも複雑な気持ちです。筆者は、1976年の「シークレッツ」前後のハービー・ハンコックをベストと考えています。要するに「むせ返るような熱いファンク」。これこそハンコック。何度聞いても胸が高鳴ります。そういう意味で、本作でも、ティナリウェン、ケイナーン、ロス・ロボスをフィーチャーした「ここに死が/エクソダス」に、往年の「熱気」を多少感じることができ、うれしい気持ちがします。
歳とったハンコックに当時の熱気を期待するのも酷だと思いますが、あまりにも行儀の良い「商品」を生み出すことに長けてしまった老練さに、やや物足りなさを感じてしまっている今日この頃なんです。
ラウンド・ミッドナイト [DVD]
1986年製作、ベルトラン・タベルニエ監督。音楽監督は
ハービー・ハンコック。
まず50年代のパリのジャズクラブ”ブルー・ノート”の
雰囲気が堪能できるのがイイ
”ジャズの革命家””モダン・ジャズの開祖”と呼ばれた
バド・パウエルがモデルであり、パリへやってきたこの辺りの
頃は既に全盛期を過ぎ、演奏もバラつきが出てきて
プレイ自体も枯れた味わい。
主演のデクスター・ゴードン自身もパリへ流れたという経緯が
同じだし、この時期は同じくもう麻薬や酒に蝕まれてたようだ。
やはりプロのメンバーの演奏シーンはイイ
説得力が違う。パリでの、ハービー・ハンコック(p)にジョン・マクラフリン(g)、ピエール・ミッシェロ(b)やボビー・ハッチャーソ(vib)という第一線で活躍中のベテランジャズマンを配した演奏は単純に、
ミーハー的に興奮ものである。
このデクスのプレイは溌剌としたキレのある
ジャズではないし、演奏自体決して上手いといえない場合も
あるけど、レイドバックなブロウは独特の味を生み出す。
そう、甘美で哀切のある退廃の味。
ジャズの本質は正にそれだ、と監督はいいたいのだと思う。
バードもそうだったが、
ディルは”客に理解されない風変わりなコード”で
当時前衛的なジャズを生み出してた上に
即興の要素がほかの音楽よりも多くを占めるジャズの演奏は、
本人にとればストレス以上の負荷である、
まさに一瞬一瞬の創造行為。
優れたジャズマンほど一回性を大切にし、やり直しの効かない一回、
一回の演奏に自分自身を惜しげもなく注入しなければならない。
おまけに「モード」を含めた”新主流の足音が
背後からプレッシャーをかけてもいたと思うし。
そしてそれは静かに、そして急速に流れていく死への道程なんだろう。
そのことが、彼のファンであるフランソワの視線を通して
痛切に伝わってくる。
彼を助けたい、でもそのことと彼の「創造」が比例しないと
感じずにはいられない、彼なりの哀切を通して。
やっぱり破滅と引き換えに生まれた音楽はこの上なく
美しく、どうしようもなく惹かれてしまいますね
本物のジャズを知りたい僕のようなヒトは
ぜひ観てほしい1本。
Headhunters
ハービー・ハンコックが1973年に発表したジャズ・フュージョン/ジャズ・ファンクの名盤。まさにハンコックだから出来た一枚。
ジャズという媒体に翻訳する。翻案して支配下におく。それをさも普通のものとして提示する。だので全神経こそ集中することに
なるが複雑な見解は要求されない。呪縛から解放される。させられる。存在しなかった規則に還元してゆく。常に進化し続ける文脈。
主題は文字通り底なしでどうやったってペースに惹き込まれる。それがハンコックという限界体験。
さて参加メンバーを紹介するとね、ベニー・モウピン(tenor and soprano sax, saxello, bass clarinet, alto flute)に
ポール・ジャクソン(electric bass)にハーヴィー・メイソン(drums)にビル・サマーズ(percussion)。この四人がつくる実に下半身にくる
ファンク・ビートがたまらない。あんよが気持ちいい。そして絡むハンコックの考え抜かれ効果的に使われるクラビネットにシンセ、
フェンダー・ローズ・エレクトリック・ピアノからひねり出される浮遊感ある演出。野性と知性の激しい二面性。しかしそもそもハンコック
が二面的でありピアノ演奏ひとつとってもそう。大胆不敵なだけのようで鋭敏な頭脳による裏打ち。デリケートに弾いてるときだって
寛大で夢想的奥行き。急進的に統一させたようにみえてすべては彼だからこその当然の帰結。
さてまず一曲目は15分に及ぶ「Chameleon」。ユニークな名曲。未知に対する意味深長な洞察。二曲目の「Watermelon Man」は1962年に
発表された記念すべき初リーダー作に収録されている代表曲を斬新にアレンジしてみせた。エレクトリックでファンキー。
しかしこの余裕。。この遊び心。。そう、のしあがったんだよ10年で。。
続いては三曲目「Sly」。く〜はやいなあ、しびれるなあ、かっこいいなあってね。互いに高めあいながら拮抗する。そして後半とび抜ける!
フェンダー・ローズによる超絶速弾き!そして、すなわちこれが次作への布石でもある。イメージは常に先に行ってる。
最後に「Vein Melter」。これはもう本当に単純なんだね。緊張と弛緩のあいだに機能化させられて勝手に受け答え。絶妙。らくちん。
いつまでも動いてる。いっしょになってね。消えることはないさ
Jazz & City ‾V-music‾ [Blu-ray]
コンセプトは面白いですし、収録曲も馴染みがあって安心でき、都市の景観や自然の風景がHDで堪能できる、という期待で購入してみました。が・・・
個人的に極めて残念な仕様が、収録されている映像の多くに、HDのポテンシャルから考えると「あまり好ましくないエフェクトが掛っている」これに尽きます。NHKの豊富なHDアーカイブを利用しているので、てっきりありのままの原風景を楽しめると思い込んでいたのですが、スローモーションをはじめ倍速やレイヤー、彩度補正、拡大、ミラー、セピア、フィルム加工etc・・・収録曲のイメージに合わせて加えられたエフェクトの数々が「観る」楽しみを大幅に減衰させてしまっています
恐らく作品としてはイメージコンセプト的な捉え方で、映像は音楽に合わせそれらしい「ムーディー仕様」になっているのでしょう。この点で「(”観流す”事が前提の)BGV」と割り切れれば十分購入する価値はあると思いますが、私のように景観をじっくりと堪能したい派には若干手厳しいものがあります
Future 2 Fyture Live [DVD]
「ロック・イット」のLDが廃盤になって、現在エレクトリック・ハンコックの映像はこれしかありません。
これは数年前の同名アルバムのライブ映像です。ほとんど同じメンバーで東京ジャズにも参加していました。アルバムはハンコック版クラブ・ミュージックって感じでした。当時ニューヨークで流行っていたポエトリー・リーディングなんかも入っていて、アイデア満載って感じでしたが、印象に残るような名曲はなかったような気がします。「フィーツ」が踊れないディスコ・アルバムであったのと同じ意味で、踊れないクラブ・ミュージックだと言うことが出来ます。(クラブには踊らずに音楽だけが目当ての人もいますけど・・・)
個人的にはアルバムよりもこのDVDの方が好きかも知れません。何と言っても、ブルーノート時代の名曲"ドルフィン・ダンス"がこのメンバーで演奏されています。ここまで崩されると換骨奪胎って感じで納得できます。またハンコックは珍しく、"バタフライ"や"ロック・イット"まで演奏しています。アンコールはいつもどおり"カメレオン"です。やっぱり最後は盛り上がります。メンバーがそれぞれソロを取り、一旦エンディングを迎えたか、というところで八コックがアコースティック・ピアノを弾きだすと、わかってはいるのですが、さらに盛り上がります。