テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)
まじめで謙虚な浴場設計技師ルシウス・モデトゥスが、紀元2世紀のローマと現代日本の風呂の間を度々タイムスリップ。日本の風呂各種で体験した諸々のアイデアをローマで展開し、当代一の名声を得るが、平たい顔族(日本人)から学んだことばかりなので謙虚に内心悩む、という抱腹絶倒の話です。一家6人で腹を抱えながら読みました(大爆笑)! ルシウスの姓の「モデトゥス」は謙虚という意味だと思います。英語でmodestですね。
実は、私は、この本のおかげで、ハドリアヌス帝(在位117-138)の愛人、アンティノウスの大理石の像を新橋で発見しました。
本の中ごろに、愛人のアンティノウス(18歳位?)がアレキサンドリア郊外のカノプスで溺死したため、ハドリアヌス帝が追悼として、英雄や神々に模したアンティノウスの像をたくさん造り(数10体か数100体か?)、ローマ帝国中にばらまく話が出てきます。
ルシウスの友達の彫刻家マルクスが、20体くらい注文を受けてふうふういいながら造っているところに役人が見回りに来て、そのマルクスの仕事場にしつらえてある家庭風呂を見てびっくり。ルシウスが日本のマンションの風呂にタイムスリップして見てきたものを、マルクスの年老いた師匠のために作ってやったんですね。その役人は、さっそく風呂大好き人間のハドリアヌス帝にご注進に及んで・・・というお話ですが、その山のようにつくった若いお小姓の石像のひとつが、なんと、
東京都港区新橋5-22-10 松岡田村町ビル(日比谷通りに面しています)
の前に立っています。ここは、現在は白金台に移った松岡美術館があったビルで、その名残で、何体かの石像がビルの中と外に陳列されています。
私はこの場所に石像があるのはずいぶん前から知っておりましたが、特に興味を持って詳しく見たことはありませんでした。ところが、この風呂漫画を読んで数日たったある日、何気なく通りかかったついでにその石像の下の解説版を覗き込みましたら、ハドリアヌス帝の愛人のアンティノウスを記念して造られた像で、ローマの外港、オスティアで発見されたものだと書いてありました。まあ、その偶然にびっくりしましたね。まさか、漫画で観た一シーンに描かれていた石像を、しかもその本物を目にしていたとは(笑)!
ちょっと面白かったのは、マルクスが彫っていた石像は全裸でお尻がぷりぷりでしたが、新橋の本物は、衣を着けていて、お尻はそれほどふくらんではいませんでした。
ただ、いわゆるギリシャ・ローマの筋骨隆々の男性像とは違って、どちらかといえば、すこしふっくらしているんですね(笑)。以前、通りすがりに眼に入った石像の印象はというと、なんで肉体美じゃないのかなあと不思議に思っていました。その日は、どういういわれの像だったのか、なんでふっくらしているのか、すべての謎が解けたんですね。もう一人で大笑いしてしまいました。
オスティアというと、ローマの南西にあり、ティレニア海(地中海)に面した外港で、ハドリアヌス帝が整備したローマの玄関口だそうです。そこにあった像ということは、たくさん造った像の中でも、本人によく似ているとか、なにかポイントがあったのではと勝手に想像しています。
もし、新橋方面にお出かけの時があれば、覗かれてみてはいかがですか(笑)。