Pills N Thrills N Bellyaches
所謂「マンチェスター・ムーブメント」を代表するバンドとして、ストーン・ローゼスと並び立つ存在として語られることの多いハッピー・マンデーズの、世間的には代表作として語られることの多いサード・アルバム。
確かに、このアルバムは「ステップ・オン」「キンキー・アフロ」という彼らにとってのUKトップ10ヒットを2曲とも収録しているし、何よりもプロデュースを担当した敏腕DJ/リミキサーであるポール・オークンフォルドのセンスの良さもあって、耳ざわりのいいスムーズな音に仕上がっている。で、実際に「すごく売れた(ファクトリーレコードの社長である故トニー・ウィルソン談)」訳だから、まあマンチェ・サウンドを知ろうと思ったらこのアルバムとローゼスの1stと、あと『スクリーマデリカ』を聴けば十分、かも知れない(シャーラタンズとかインスパイラル・カーペッツとか…ノスタルジーはいいってw)。
あくまでも「入口」です。ロックに「批評的知性」や「実存的表現」を求める人ならある意味避けて通れない踏み絵的バンドだと思う。「究極の飛び道具」かつ「危険球スレスレの変化球」だとは思うけど…
でも、ローゼスが音楽的に天才の集団で、ムーブメント抜きでも「すごいバンド」だったのに対して、このハピマンはあくまでも「状況の産物」であり、「大きなマトリックスの一部」であるという違いがある。つまり、天の邪鬼のアート・ディレッタント達がロンドンのシーンに対して対抗意識を持って興した「ファクトリー・レコード」の所属アーティストであり、その先達である「ニュー・オーダーが始めたロックとダンスの融合」の正当な後継者であり、クスリをキメて夜通し踊るという、NYのクラブシーンをマンチェスターで再現した「ハシエンダ」での熱烈な支持をバックにのし上がってきた、という。実際、彼らのブレイクの下地を固めたのは2ndアルバム収録のシングル「Wrote For Luck」の、P・オークンフォルドによるリミックスがハシエンダでアンセムとなり、その12インチがロングセラーとなったからだ、というのはトニー・ウィルソン著の『24アワー・パーティ・ピープル』にも書いてあった通り。
だから、このアルバムの成功というのは確かに「収穫の果実」ではあるけれども、「ハッピー・マンデーズ」というバンドの本質的な魅力が堪能できるのは、実はこれ以前の1stと2ndということになる。ヘロヘロでボロボロ、デタラメだがドラッギーでサイケかつシュールな、正に「実存的な」生のグルーヴでこちらをギョっとさせるところにこそ、このバンドの真骨頂がある。確かにこのアルバムも良く出来てはいるのだが、この妙に収まりのいいプロダクトだけで彼らを判断するのは…残念というか、それをしてる限り「本命のローゼス、対抗のハピマン」という構図から抜け出せないだろうなあ、と。
Squirrel & G-Man 24 Hour Party
マンチェスターを代表する史上最高(最悪?)のバンド、ハッピー・マンデーズのデビュー作。後にダンスとロックの良いとこ取りのようなバンドに成長するが、ここでは片鱗こそ見せるもののまだやさぐれロックバンドである。演奏も歌もお世辞にも上手いとはいえないが、代表曲が幾つも入っているのでやはり買うべきだろう。