墓地を見おろす家 (角川ホラー文庫)
本書の怖さは閉塞的で、盲端の端であえいでいる様な感覚だ。後に分かるが、かつては、土葬も行われた墓地と、中途半端な開発のため、地下では穴で繋がっているマンションが舞台だ。それでも、格安なので、一家は割り切って購入。しかし、次々と不吉な事が起こる。常識的に考えて、墓地は人に何も危害を加えない。墓地に隣接した民家は数限りなくある。ところが、このマンションは例外だった。
このマンションの特異性に気付いた一家は、転居を試みるが、転居先は火事で全焼するなど、転居すら妨害されている。さらには、マンションの窓や戸が開かなくなり、一家は完全に閉じこめられる。相手は見えないが、時折一端が見え隠れする。見えない相手に、じわじわと締め上げられる。これは怖い。閉塞感を伴うだけに、強烈に怖い。
本書で味わう恐怖は独特だ。閉塞感的恐怖とでも呼びたい。
欲望 [DVD]
レンタルサイトで面白そうと思って、まず本を読んでから、DVD観ました。
本は再読だったのですが、読み返そうという気持ちにさせてくれたので、まずは
面白そうな映画だと思わせてくれたことに敬意をささげようと・・・思います。
肝心の内容はというと、原作にある静謐で世俗から離れた雰囲気が足りない感が
ありあり。端的にいえば貧相です。いや、70年代なのだから、こっちが勝手に
想像しただけで、精神科医の屋敷のガーデンパーティーなんて、実際はあっちが
本当かもしれない。だからロケーションでなくて。
キャストにケチをつけよう。
正巳役の俳優、名前を見た時、あの人だよね・・・精神も肉体も美しい青年とは
言い難いような、だけどちょっと異国風の容貌なので、思っているよりも案外良かっ
たりすることに期待できるかと思ったのだけど、足りないでしょう。貧相でしょう。
いちばん違和感を感じたココが、やっぱり問題だったと思います。
ここで別の人の名前を挙げても、映画を観たあるいは原作を読んだ方が同じように
思うか分からないので難しいですが、職業が庭師ならもっとたくましい体つきでいい
と思うし(高校生までの彼は健やかに過ごしていたし)、他の方もおっしゃる尻の
タトゥーはメイクで消すべきだと思いました。だって正巳には無い!
阿佐緒役は、メインキャストの中で唯一テレビでよく見かける人なので、
70年代が舞台の映画でなく、テレビドラマのように感じてしまうのですが、それ
を差し引けば、原作ではもっと楚々とした美女・美少女を想像していたけれども、
小池真理子さんはこんな感じをイメージされていたのかも、とも思えました。
類子は、原作では、スタイルは良いが容貌はあまり華やかではない女性を想像
していたので、板谷由夏さんの美貌に違和感はありましたが、映画を観ていくうち
板谷由夏すげー、と思いました。激しい性描写と広告にあるので、ある程度は・・
と思っていたのですが、文章で読むとやっぱり文学だよ。映像で見るとやっぱり
性交だよ。セックスってこうすんのかー!と熱情を感じる、板谷さんの脱ぎっぷり、
交わりっぷり。ここ久しく日本の情念のドラマってないけど(五社英雄監督!)、
そういうのを演じられる若く美しい女優さんだと思いました。最近おらんやん、
そういう女優さん。すげー。
キャストの他に、ここを落とすとはなんたることっ、と思ったのが、終盤の
正巳が沖に泳いでいくシーンです。原作もここに魅かれた人が多いと思うのだけど。
最初は沖にゆきすぎて泳いでいるだけ、と思った類子が、危ないからあまり遠くへ
いかないでと呼びかけ、次に目を遣ると、さらに沖へ沖へと泳いでゆく正巳。
青い海と小さくなる正巳の姿に映る美しさと絶望感。これをこそが見たかったのに、
わたしが絶望感を感じました。ここを時間の尺をとって、美しく撮ればいいのに。
もったいない。
と内容では、原作の補完をしたい(映像美が見たい)と思っていた欲望が満たされ
ずに欲求不満なのですが、原作が良ければ審美眼のレベルも高くなるので、二次
創作は最初から高いものを求められるので分が悪いということにしておきましょう。
そして、いい女優、板谷由夏さんを見つけたことを良しとしましょう。
異端者の快楽
「編集者という病い」に続く、幻冬舎見城徹社長の自伝だ。前作を読む限り第2弾というのはおそらく出ないだろうと思っていたので嬉しい思いで手にした。また、前作では2,3年で仕事を辞めるようなコメントがあったが、今作ではまだまだやり遂げたいと思っている仕事を書き連ね、出版業界を今後も牽引していこうとする強い意思が感じ取られる。
本書の中で幻冬舎立ち上げの際の思いが綴られているが、その中で、立ち上げの際に考えていたという「不可能だ、無理だ、無謀だと言われることを、圧倒的な努力で可能にしたとき、結果というものは出る」という言葉があった。帯にも「すべての創造は一人の圧倒的な熱狂から始まる」という熱い信念が書かれているが、見城社長のこの想いなしには幻冬舎の今の力強いブランドはできなかったろうと思う。とても感銘を受けました。