初舞台・彼岸花 里見トン作品選 (講談社文芸文庫)
里見という名を始めて知ったのは小津安二郎の映画の原作者としてその読みにくい名前をクレジットに連ねていたからですが、小津の「彼岸花」の原作を読んでやろうと思って買ってみたら、最初はこの上なく読み難く感じ、しかし何度も何度も繰り返し読むうちに段々面白味が分かりかけた所へ、鶴井俊輔氏の「白樺で戦争協力しなかったのは里見と柳宗悦だけなんだ」という証言を「戦争が遺したもの」という本で読んで、更に好感を持つようになって読んでみると、鶴見氏の言う白樺の始まりの動機である「権威への反発」という要素が、「みごとな醜聞」に良く表れているのが感じられ、それが形を変えて「彼岸花」にまでつながっているのを読むと、小津安二郎の映画の世界も、ただ老境に達した「白樺派的な趣味と余裕の世界」とばかりは見えなくなってくるから面白いものです。「銀次郎の片腕」は、ロシアの文学に影響を受けたと巻末の解説にありますが、私は現代スコットランドの作家ウェルシュの短編「幸福はいつも隠れてる」を思い出しました。