デンデラ野 (新潮文庫)
父、母、姉、弟、おばあちゃん。よくある現代家庭が描かれており、ちょっと厄介者扱いをされているおばあちゃんが主人公です。このおばあちゃんのスタンスが面白い。家族に無視されていても動じない、特に悲しみも喜びもしない、腰の据わった冷静な観察者です。まるで家庭のなかにある姥捨て山「デンデラ野」から、家族の各人バラバラの生活をじーっと眺めているような。
特に深刻な事件も起こらず深刻な告白も無いのですが、おばあちゃんの目線でこの家族の日常を見ていくうちに、各人がなんとなくバラバラに生きていることの不思議さ、生活を共にしている家族が実はお互い見知らぬ他人であるような静かな不気味さが湧いてきます。
読みやすい文体で、まったく湿っぽさ・重苦しさが無く、からっとしていて面白く、実は怖い。
善知鳥(うとう) (河出文庫―文芸コレクション)
表題作は私にとってはなんだかよく分からなかったのですが、最初に収録されていた「逆髪」が印象的でした。盲目ゆえに山に捨てられた蝉丸は、狂気ゆえに山野をさまよう身となった姉逆髪に出会います。お互いにみじめな境遇に陥った二人。逆髪は蝉丸を理不尽に責めることで救われようとし、蝉丸はそんな逆髪に対してただ詫び続けることに救いを見出す。会話がうまい。退屈しませんでした。救いの無い哀しい話なのですが、その哀感が美しい短編です。