あの子を探して【字幕版】 [VHS]
おもしろかったのは、代用教員であるミンジがまるでやる気のない先生だというところです。ミンジは報奨金ゲットのために生徒の未来や将来も考えずに一途に行動する、そのしたたかさと自己チューのところが現代中国を象徴しているなーと思いました。そして、その表情がまた独特なのです。可愛くない、素直じゃない、目つきが悪い、能力がない、短気である、とまあ、さんざんないわれ方ですが、映画はこのミンジのキャラでなければおもしろくはならなかったはずです。タイトルからして、迷子探しの「お涙頂戴」モノかと思っていたので、この予想外の設定には思わず引き込まれました。そして、とうとう、ミンジのTV出演の場面には、ムググッときたのです。それもこれも、ミンジの要領悪すぎの3日間がミンジのこぼれる涙でカタルシスとなり、その涙に呼応する迷子のホエクーの表情がものすごかったからです。現代日本では絶滅したホエクー的少年は、まだ、中国にはいるのですね。寄付金まで手にして帰村するくだりにはやや戸惑いを覚えましたが、エンディングのチョーク一文字の場面は、非漢字文化圏(ヴェネチア)の人間にとっては神秘的な感動すらあったでしょうね。
「初恋のきた道/あの子を探して」オリジナル・サウンドトラック
初恋のきた道、あの子を探してがカップリングされてこの値段はお得感が高い。もともとスコア数が少ないので、2作併せて1枚で良いのかもしれない。曲は映画を観た方は、すでにご存じのように素朴で詩的な美しい旋律で、特に初恋がきた道の曲は心に残った。ファンの方は是非買いかと思う。
あの子を探して [DVD]
ミンジ役である13歳の少女は、まさに天然の花の開花!。
時にスクリーンに特別輝くような魅力を放ち登場する、というようなヒロインの登場とはみごと異質にだけど、彼女はこの映画を観終わった人に忘れられない印象を残すだろう。
「泣き笑い」というと日本的だが、笑ったり微笑んでいる隙間に、突如として涙が頬を伝う経験をする人が多いだろう。
その涙も、この映画を良識的にというか(正常に?)・・ちょっといじわるに観賞する人も、やはり拒絶できないのではないかと思う。
登場した時からミンジは寡黙だが、その一途に直進する性格で、不可能を図らずも可能にしてきた。神の加護に包まれながらのようにだ。
監督が撮り直しのできないシーンとしていたテレビカメラの前で、アナウンサーのいくつもの質問のなかから「どうして学校にいけない子供がいると思いますか」という問いに、「お金がないから」と初めて答えるところに、中国の田舎の現状と、そこに住む彼女たちに切実な心の声が聴こえる。
そしてホエクーを探し回る最初の動機は、今は問題ではなかったことがわかる。
めでたいハッピーエンドに終わるまでの途上、村に帰る車中でも撮影されるふたり。
アナウンサーに「都会でなにが思い出になったか」と問われるホエクー少年が、「食べ物を恵んでもらったことは忘れない」と答えるのも、映画の中で彼らを見守った観客に説得力を持つ深い印象を残す。
興味深いのは、登場する中国の大人たちのほとんどが、とてもドライなことである。
いやミンジにしても、最初だけホクエー探しに協力してくれる少女にしてももっぱらドライである。
しかしけしてずるい狡猾なドライさではなく当然とも感じさせるのは、それが中国の近代化されていく大きな現実を生き抜くためだろうというのが伝わって来るからである
そういう必然的な生活感のあるドライさ、とでも言えるものだ。
あの子を探して
中国で1999年に公開され、全国で大きな話題となった。原題である「一個都不能少」は「ひとりでも減らしてはならない」という意味。僻地の小学校の先生たちを応援しようという国家プロジェクトを推進するための、実は中国政府の国策映画であったが、様々な事情で勉学を諦めざるを得ない子供たちだけでなく、先生方を減らしてはならないという意味もこもっているのだろう。決して人捜し物語ではない。そのあたりを知った上で見ると、さらに面白みが増す。同時期に撮影された「初恋の来た道(我的父親母親)」も同様の国策映画。
あの子を探して [DVD]
きょうはこの映画をロードムービーとして楽しむことにしました。中国農村部の貧困だとか義務教育の重要性だとか、そうした社会背景を度外視して、13歳の女の子で代用教師である魏敏芝の 冒険活劇 だと思ってみていると、最近の張芸謀のエンタテインメント路線が決して罪作りとは思えなくなるので不思議です。邦題「あの子を探して」はこの路線を意識しての命名だったのかなぁ、とも思えてしまいます(正統派の見方ではないでしょうけど)。
でも原題は「一個都不能少」、英語タイトルも Not One Less 。一人欠けても完璧ではない、という意味でしょう。この映画は魏敏芝だけではなく、すべてのキャスト・スタッフの素晴らしさが光っています。映画って関わる人が一人でも欠けてしまうとダメなんですよね。魏敏芝の一途さが張芸謀のそれと重なって見えてくる気がします。
とにかく、いろんな角度で何度も何度も楽しめる映画だと思います。