完訳 カンタベリー物語〈上〉 (岩波文庫)
『カンタベリー物語』は、さまざまな人たちが一緒に巡礼する中、各人が順番に物語をする。身分の高い人から低い人までいて、順々に語るのだが、とくに身分の高い人たちの物語には、決まって垣間見えるものがある。
敬虔な信仰と高貴な血筋を持つ女性(コンスタンツ)が船が難破したため異国に迷い込んでしまう。
また、
事情によりある男(アルシーテ)はその高貴な元の姿を隠して貧しい者になりすまして、城の従者として二年ほど暮らす。
だが彼らは、その生まれながらに持つ高貴さゆえに、異郷の地であろうと元の身分を隠そうと、相応の地位へと昇ることになる。
難破や恋の病により(原因はなんであれ)、彼らはいったんその身分が剥奪されるが、また元の位置へと帰っていく。これがカンタベリー物語のうち、
身分高い人たちが話す物語の基本構成となっている。
そこには、現状の地位を喪失するのではないかという不安、そして自分たちの地位は生まれながらの不変のものであることを、物語の形を借りて論証することで不安を解消しようとする意図が浮かび上がってくるように思う。当時の身分高い人々に共通した感情がそこにはあったのではなかろうか。
以上『カンタベリー物語』を、一面から見た場合の一所感にすぎないが、現代イギリス人の思考の原型、当時の歴史的背景、面白い生活史、ささいだが不思議な発想など、掘り起こしたくなる遺跡がたくさん埋もれていると期待している。遠い異国の遠い昔の物語と疎遠に思われず、多くの方々が書の考古学者になって『カンタベリー物語』から楽しい遺跡を発掘されんことを祈る。
Edgar Allan Poe: Complete Tales & Poems
広辞苑なみのサイズの割に、非常に軽い紙とカバーを使っているので、意外なほど軽く、デスクの上に置かなくても、ふんぞり返って座った腹の上に本の下部をのせて両手で支えて、かなり長時間でも読みつづけることが可能です。このサイズの本としては比較的、読むのに苦労しない方であるのは間違いありません。が、しかし、片手で開ける普通のペーパーバックに比べたら、やっぱり読みにくいことに違いはないので、信じがたいほどの安価につられて、お買い得というだけで購入してしまわないようお勧めします。
しかしまあ、ポーの作品ともなると、電車の中とかではなく、自宅でじっくり腰を落ち着けて(電子辞書なんかもちゃんと用意して)読む、という人が多いでしょうから、これはあんまり欠点にはならないともいえます。Stephen King の "The Stand" なんかは、多分これとあまり違わない情報量を、はるかにコンパクトなペーパーバック製本で売ってますが、それぐらいコンパクトにしてくれてもよかったかなと思いつつ、色々迷ったけれどまあ5点。
Third (Bonus CD)
カンタベリー派ロックの最高峰。前人未到の偉大な挑戦が見事に実を結んだ大傑作。明らかに「狙った」と思われる曇った音質は何度リマスターされても変わらない(変わられては困る)。
個人的にはカンタベリー派最高傑作のラトリッジ作「Slightly All The Time」。「Backwards」の名でも知られるこの曲の後半の素晴らしさは饒舌に尽くしがたい。知的で緻密であると同時に官能的。
ワイアットが多重録音にてほぼ一人で作り上げた「Moon in June」。唯一無二の個性、無垢な美しさを伝えるワイアット代表作のひとつだ。こんな個性がこのバンドに存在するのはまずそうだ。この後「4」録音後にクビになるのも頷ける。インテリ・バンドらしいセクト主義。
カンタベリー物語 I RACCONTI DI CANTERBURY [DVD]
パゾリーニ「生の三部作」を見た。
デカメロン(1971:ベルリン銀熊賞)、カンタベリー物語(1972:ベルリン金熊賞)、
アラビアンナイト(1974:カンヌ審査員特別賞)の古典オムニバス作品である。
あまりにインパクトが強く、これらに続く「ソドムの市」や自らの撲殺を予感させる。
遡ること20年、1953年に溝口健二監督が上田秋成の「雨月物語」をオムニバスで撮り、
ベルリン銀獅子賞を獲得した。イタリア人は果して今の私と同じような衝撃を受けただろうか。
パゾリーニも溝口作品を見て、この古典3部作の映画化を思いついたと言うのは考えすぎか?
さて、カンタベリー物語は英国カンタベリー、デカメロンはナポリというだけあって、
そこに漂う空気は後者が明るく、本作品は寒々しい。また庶民を描いた2作品に対して、
アラビアンナイトは身分の高い女性が登場し全般に美しく、空気はカラッとしている。
ストーリーがまだ一番受け入れやすいのはアラビアンナイトで、このカンタベリー物語が
一番おぞましい。特に最後の地獄絵巻はその極致で圧巻である。ひょっとして「大日本人」の
松本一志はパゾリーニのような映画を創りたいのではないかと考えたりした。
恐らく圧倒的に支持する人も多いと思うが、私には馴染まず星3つにさせて頂いた。
カンタベリー物語は雰囲気、色彩、一人ひとりの所作等を見ていると、ブルーデルの絵画を
動画で見ているような気がしてくる。
それにしても出演者の歯の悪さには驚く。パゾリーニは、歯の悪さを基準に、出演者を素人の
中からセレクトしたに相違ない。