新青年傑作選怪奇編 ひとりで夜読むな (角川ホラー文庫)
ほとんどが昭和初期に書かれたものであるため、現代人の私が読んでも背筋が凍る程の恐怖を感じることはありませんでした。
もっとも著者達は、現代ミステリ・ホラー界にとっも先導的立場にある人々であり、その影響を受けた後世の作家の、同じような雰囲気の作品を私が読み慣れてしまったせいかもしれません。
また、当時の人々が恐怖していたもの(医学的に解明できない奇病、医学的にありえる奇形等)と現代人が恐怖するものの間に微妙なギャップがあるのかもしれません。
当然、この短編集の中にも、人の心の病を題材にしたものが多く、読んでいてゾクッとしたことも度々でした。
古典的情緒あふれる文体も魅力的だし、友達にも勧めたい気もするが、さてこの本は、旅のお供にピッタリか、それとも秋の夜長にピッタリかと考えると、ちょっと微妙なので☆4つにしました。
小酒井不木集―恋愛曲線 (ちくま文庫―怪奇探偵小説名作選)
今から十七、八年前にもなろうか、創元社の「日本探偵小説全集」で「痴人の復讐」「恋愛曲線」他の不木作品に始めて接した時の衝撃は未だ忘れ得ぬ。医学者としての博識とルヴェルやポーの影響色濃い怪奇趣味が混交した作品は静謐な狂気を孕んでいる。当時は不木単独の作品集が無かったため、不木作品が収録されているアンソロジーや初出誌を東奔西走して渉猟したのも懐かしい思い出だ。本作は不木の代表的短編がほぼ網羅されており、嘗て血眼で不木作品を収集した私の労、その轍を踏むことなくこの一冊で鬼才の世界を堪能できる今の読者は幸せ者という他ない。乱歩や横溝に比して一般にそれほど膾炙してるとは言い難い作者ではあるが、一度この不木ワールドを覗きこんだが最後、決して逃れ得ぬことは保証する。是非ご一読あれ。
五階の窓 (春陽文庫―合作探偵小説)
日本ミステリ界で初めて行われた連作推理小説として有名な作品。
大正15年に『新青年』に連載されたもので、江戸川乱歩が発端部分を執筆、以下、平林初之輔、森下雨村、甲賀三郎、国枝史郎と書き継ぎ、最後に小酒井不木が結末を担当している。
事前にストーリーや結末を打ち合わせておくことなどせず、全員が好き勝手に書いていったものらしい。そのためか、ストーリーが滅茶苦茶というか、結末の付けようがないというか、小酒井が随分と苦労してまとめたようである。非常に苦しい「真相」になっている。
連作推理小説というのは魅力があるようで、作家たち(や編集者)が「やってみたい!」と思うようだが、うまくいった例というのを知らない。これも失敗作だ。