犯意 (新潮文庫)
この本の特徴は、まず事件の詳細を聞き、専門家の解説を読むことで、「自分だったら・・・」と考えることでまるで「裁判員」の疑似体験をしているような気分をしてしまうことにある。
だから本書はエンターテイメントの面はもちろんのこと、それ以上に「社会面」が強い作品だったのではないかと思う。
しかし、私はそうした意味と同じか、もしくはそれ以上に大切なことがあるのではないかと思う。
それは、「人のふり見てわがふり直せ」ということ。
読み終わった多くの人は、事件の犯人の行為をみて、「こいつは最悪の奴だ」とか「自分はこんなこと絶対にしない」と思うことだろう。
しかし、絶対にそうといえるのか?、そういう環境を作っていないか?、そうしないためにはどうしたらいいか?、などいろいろなことを自分自身に問いかけてみることが本書を読んだ人には必要なことだと思う。
これまで書いたことを肌で感じるためには、実際に裁判の傍聴をしてみるのが一番だ。
しかし住んでいるところなどの事情から難しいという人もいると思う。
そんな人に本書を勧めたい。
凍える牙 (新潮文庫)
TV界等でも、ベテラン俳優でさえ、「子供と動物には勝てない」そうである。小説でも同じで、主人公に小さな子供や動物を持ってくると、批判ができないムードになり、お涙頂戴のストーリーも書きやすくなる。
本作でも作者は主人公をハッキリと狼に設定しており、不自然な発火事件から始まる刑事達の活動などは添え物くらいにしか考えていない。作者の頭にあったのは、結末の大都会の中の狼の疾走シーンだけだったろう。これをバカらしいと思う人には付いて行けない。狼をこのように自由に操れるのかと言う根本的な疑問もある。滅びかけた(実際には滅んだ)幻の狼の姿に共感が持てる人だけに通用する作品。
いつか陽のあたる場所で (新潮文庫)
東京の下町谷中を舞台に、前科を持つ2人の女性が、自分の犯した罪の重みと向き合い、
苦しみながらも助け合って、明日へと少しずつ歩みだす物語。
同じ釜の飯 小説新潮2005年10月号
ここで会ったが 2006年 4月号
唇さむし 10月号
すてる神あれば ヨムヨム vol.2 に初出
どんな事情があっても、一線を踏み越えてしまい、前科を持つ身になるということの重さを、
明日を見つけていくことの難しさを、見事に描き出しています。
罪を犯したことで家族に捨てられたと思っていた主人公芭子が、
その真実に気づき愕然とするくだりには、本当の罪とは何だったのかを考えさせられます。
現実の厳しさに何度もくじけながらも、明日に向かおうとする二人に
陽があたる日が来ることを願わずにはいられませんでした。