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一億三千万人のための小説教室 (岩波新書 新赤版 (786))
この本を読んで、文章力が上がるとか。そういうことではない。
これは、そういうスキルアップのための本ではないです。
「小説とは何か」という部分から問いかけて、
こころで思っていることを文章におこす、ということを1から教えてくれる本です。
文章を書いて何かを人に伝えよう、という思いを既に知っている人には不要の本かもしれません。
今まで文章を書こうなんて思いもしなかった方にオススメしたい。
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書きあぐねている人のための小説入門 (中公文庫)
本書を読みこなせば、新人賞くらいは取れるようになる、と豪語する本。ほぼ日刊イト
イ新聞でダイジェストを読むことができ、その話は一見の価値がある(「ほぼ日」「書き
あぐねている人」で検索してください。そこから開くページにはいきなり第五回目の連載
がでますが、ページの下の方に一〜四回、各連載へのリンクがあります)ただし、書籍で
は、ほぼ日連載時に感じた迫力は薄まってしまっている。ウェブ上では面白いが、紙の本
になると魅力が霞んでしまっているのだ。それも、書いてあることが全く同じ話であるの
にも関わらずに。どういう印象かと言えば、不思議なことに具体例が失笑してしまうほど
稚拙に感じられてしまう。掲載されるメディアによって、ここまで文章の印象が変わるの
かと驚かされる。
また、「新人賞くらい取れるようになる」とは言っているが、初学者がそれを真に受け
てはいけない。これは保坂和志の小説論であり、小説の理解を深めたいと考えている人の
参考となる。だが、ビギナーを突然「小説家」に変える秘薬では決してなく、期待させる
ものが大きい分だけ、少々残念な一冊だと言える。
それでも読者はきっとほぼ日の連載に感銘を受け、小説家志望者はこの本を手に取りた
いという衝動に駆られることだろう。文章にも引き込まれる。
だがしかし、保坂氏が述べているようには、自らの小説のイメージは膨らまらない。ま
してや「書きあぐねている」人が、小説を書こうと踏ん切りをつけることも難しい。初心
者が小説を書き出すためには、心血を注いで作る自らの著作が駄作に成り下がってしまう
ことを恐れない諦念と、同時に、最高の自己表出をすることで、未曾有の傑作を書き上げ
られるとする揺るぎない確信を持たなければならない。そのために必要な、小説を書くた
めの知識や勇気を、この本はもたらしてはくれない。
読み物としてはいくら優れていても、残念ながら指南書としては飾り物程度の出来上がりだと言わ
ざるを得ないだろう。
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猫の散歩道
村上春樹さんも最近「雑文集」と題された新作を出されましたが、同様の趣旨の一冊です。たとえば同窓会新聞に寄せたと思しき文章などは、こういう形でないとまず目にする機会がないでしょうから、とても有り難いです。「小説を書けばなにも起こらず、エッセイを書けば遠回し」というようなことを、「あとがき」で作者は述べていますが、そういった文章を通して共有する時間の尊さを氏の愛読者は慈しむのですから、それはそれで構いませんし、また肩の力がほどよく抜けた本書のような文章も、これはこれでおもしろく読ませていただきました。個人的に文芸誌はほとんど読まないので、新作の小説が現在どのような形で進行しているのか把握しておりませんが、そちらも早く読みたいです。